第74話

 無事に文化祭が終わった。

 来てくれたお客様、先輩方、先生方にはとても好評で、閉会式の時に自分達のクラスは特別賞をもらった。

 今は余韻の残る放課後。

 明日明後日は振替休み、明明後日に後片付けをする。

 また、いつもの日常が戻って来る。

 非日常だった2日間は夢物語のよう。

 私にとっては時折辛かったけど、結局は楽しかった。

 絢子あやこちゃんとみなと君は先に帰ってしまった。

 私はまだ委員会の出し物での処理に終われて遅くなってしまった。

 鞄を取りに教室に戻ると、聡希さとき君がいた。

「まだいたの?」

「うん」

 彼に言わないと。


「今日はありがとう」


 非常事態に1人で対応していたら、私、どうなっていたか。

 本当に感謝しかない。


「いいよ…別に」


 口数少ないから、分かんないよ。


「別に、じゃなくて、他にあるんじゃないの?」


 私、親じゃないのに。

 小言ばっかり、ダメだね。

 聡希君は少し考えてから、一言。


「どう…いたしまして…」


 ちゃんと言えるんじゃない。


「迎え来るの?」

「ううん、今日は歩いて帰る」

「一緒に良い?」

 なんか、口に出ていた。

「良いよ、帰ろう」

 私は聡希君と一緒に下校することになった。



 隣の彼は一言も発しない。

 ただ一緒に下校している。

 それでも、何故か居心地は良い。

 無言が耐えられないのが普通なのにね。

 毎日何を考えているんだろう?

 本当に不思議で変わった人。

 横顔、綺麗だなー…。

「あのさ」

 突然だった。

「な、何!?」

 びっくりして変な声になった。

「本、好きなんでしょ?」

「えっ?」

 話題、振ってきた!

「うん、ホラーとかサスペンス以外なら」

 血とかダークなのは苦手なので。

「ふーん」

 彼は少し考えて。

「あとで、読んで欲しい本あるから、貸すよ」

「!?」

 これまた脈絡なく!

「良いの?」

 恐る恐る聞く。

「うん」

 彼は無表情。

 でも、よく見ると、無表情なりに、緩んでいるような。

「あっ、ここで。僕はあっちだから」

「私は真っ直ぐ」

 十字路でお別れのようだ。

「また」

「うん、また学校で」

 寂しくなるなぁ…。

 少し進んでから。


澪那みおな!」


「!?」


 突然呼び捨てされた。

 振り向いたけど、顔が熱くなってきた。

 きっと真っ赤だ。恥ずかしい。


「また一緒に帰ろう!」


 彼は大きな声でそう言った。


「うん!約束!」


 私も大きな声で言った。


 すると彼は自宅に向かって帰って行った。

 私も家に帰る。


 ドキドキしながら、帰ったのだった。

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