第60話

 絢子あやこちゃんからメッセージがきた。

 見てみると、こんなことが書かれていた。


『8月に私と一緒に海に行こう!』


 う、海?何で?


『明日か明後日、水着買いに行こうねー!』


 えっ?行く前提?


『んじゃ、よろしく~♪』


 突然の事に驚きつつ、渋々行くこととなった。

 絢子ちゃんは自由だなぁ…羨ましい。



 夏だな…。

 一応パラソルを借りて、場所取りも成功。

 磯辺いそべ挑夢のぞむは海で遊んでいる。

 俺はパラソルの下で涼む。

 暑すぎ…水浴び感覚であいつらの所に行こうかな。

「兄さん、飲み物っす」

「ん?頼んでないけど…」

「全員分、買ってきました」

「悪いな」

 すっかり弟分だな、瀬戸せとは。

 リアル弟よりはめんどくさくないから良いが。

「兄ちゃーん!」

 はぁ…。

 親が日帰り旅行に行くから、幸虎ゆきとらをお願いと言われてしまい、この海に連れて来た。

 女子には可愛い可愛いってモテはやされ、図に乗っている。

「行かなくて良いんですか?」

「あー…うーん…」

 結局、幸虎のいる砂場に向かう。

「初めての海、すげーな!」

「だな」

「父ちゃん達の日帰りより、すんげー楽しい!」

 大興奮してる幸虎。

「俺からはぐれるなよ?」

「兄ちゃんの目の届くとこにいるってば!」

 変な大人に絡まれたらヤバいからな。

「お待たせー!」

 宮司みやじの声が聞こえた。

「わぁー!可愛いー!」

 幸虎は先に宮司を褒めた。

 子供の特権…俺には無理だ、そんなストレート。

 海で遊んでいた磯辺と挑夢もこっちへ来た。

 俺はどうしても振り向くことが出来ない。

 緊張している。

 今まで経験したことのない速度で、ドクドクと心臓が激しく鼓動を打っている。

「本当に可愛いね~」

 と挑夢。

「見違えるな!」

 と磯辺。

 どうしよう、振り向くタイミング逃したかも。

雅虎まさとら君、まだみやびはいないよ?」

「えっ!?」

 ガバッと振り向いた。

 そこにいたのは、宮司だけ。

「…」

 プロポーションが完璧すぎる。

 フリルの付いた白の水着を着ていた。

「今ね、つばめと絢子ちゃんが雅と澪那みおなちゃんを何とか説得中」

「どういうことだよ?」

「着替えは完了してんだけどね…あっ!やっと出てきた!こっちこっち!」

 宮司が手を振っている方向を見る。

 さらに鼓動が早くなった。

 ヤバい、俺、倒れそう。

「わぁお…」

 と磯辺。

 だが、何故か宮司がすぐさま磯辺をビンタ。

「なんで!?」

「魅とれんな!」

 あれ?それって…なるほど。

「知らなかった~」

 挑夢は2人の様子にニヤニヤ。

「えっ?えっ?」

「バカ…」

 磯辺よ、気付けや。

「お待たせしましたー!この2人、出たがらなくて」

 と絢子。

 淡いピンクの真ん中にリボンの付いた水着を着ていた。

「大変だったー大変だったー!」

 つばめさんは青のストライプ柄の水着。

 夏用の白のカーディガンを羽織って、麦わら帽子を被っている。

 絢子の隣でおどおどしているのは弓削ゆげさん。

 パステルカラーの黄色のワンピースタイプの水着を着ていた。

 なんだか瀬戸の事を気にしている。

「おい瀬戸」

「なんすか?」

「弓削さんに何か言ってやれよ」

「えっ何で?」

「良いから」

 瀬戸の背中を押して弓削さんの前に突き出した。

「あっと…」

「あー、見ないで見ないで」

 顔を真っ赤にして俯く弓削さん。

 瀬戸もなんだか落ち着かない様子だ。

 それでも何とか言葉を出そうと、瀬戸は息を吸い込み。

「似合ってる…よ」

 その一言だけ言った。

「あ、あ、あああありがとう…」

 弓削さんは絢子の後ろに隠れてしまった。

 恥ずかしいんだろうな。

「みぃ、私の後ろに隠れてもダメだよー」

「うわぁ!」

 つばめさんが後ろにいた琴坂ことさかを無理やり前に出した。

 真っ白の生地に、にこちゃんマークがでっかくプリントされた、自分より一回りも大きなサイズの半袖Tシャツを水着の上に着ていた。

「あ、あはは…」

 笑って誤魔化している。

 なんだろう…制服の時や私服の時は気にしていなかったが、なんだか胸の辺りが大きく見える。

「あんまり見ないで!」

「は、はい」

 怒られてしまった。

「全員揃ったし、遊ぶぞー!」

「「「わぁー!」」」

 時間の許す限り、海を夏を、楽しんだ。


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