第56話

「なるほどぉー!そういうことですね!」

「てことは、俺と森枝もりえだで聞けばいいと」

「「うん」」

 空き教室にいる。

「任せてー!この私が必ず任務成功させまーす!」

 敬礼ポーズをして自信満々に言った絢子あやこ

「難しい場合は諦めます」

 冷静に言う瀬戸せと

 この2人に任せよう。

「今日はみおなん、日直だったから、そろそろ帰る頃だと思うから行ってきまーす!」

 絢子はマッハで出て行った。

「あ、待てってば!んじゃ、兄さんみやびちゃんまた!」

 慌てて後を追った瀬戸。

「おう、頼んだぞ」

「慎重にね」

 見送る俺と琴坂。

「上手くいくと良いな」

「大丈夫だよ、きっと」

 琴坂が言うなら、そうだよな。

「さて、帰るか」

「うん、帰ろう」

 2人で下校することにして、教室を後にした。



 目の前に森枝さんがいる。

「ふふふ」

 笑っている。怖いんだけど。

 そして、私の隣には。

「悪いな」

 瀬戸君がいる。

 教室を出ようとしたら、2人に止められてしまい、自分の席に座っている。

 瀬戸君は隣の自分の席に、森枝さんは私の前の席に。

「それで、何かな?」

 聞いてみないと分からない。

「んとね?」

 頬杖をついてニコニコしている森枝さん、不気味に見える。

「あっ、肩の力を抜いてー、リラックスリラックス」

 そう言われても…。

「大丈夫、食ったりしないから」

 ますます不安なんだけど。

「みおなん、私の話を聞いて?」

「?」

 不思議な感じを抱いたけど、とりあえず傾聴することにした。



「姉さーん」

「あーちゃん」

 私は姉さんが大好き。今もそう。

 彼氏を紹介された時は凄く喜んだ。

 とても優しい彼氏さんで嬉しかった。


 一時期、姉さんのことを嫌いになりそうになった事がある。

 小中の頃に周りから姉と比べられることが多く、とても嫌だった。

 姉さんは運動神経抜群で勉強も出来るパーフェクト超人だったから。

 剣道なんて全国レベルでベスト8までいく実力。

 私はというと、なんの取り柄のない、人並みよりは少し出来るくらいのレベル。

 姉の背中を見て剣道もやったけど、地方大会が限界だった。

 それでも、私は姉の事を憧れて誇りに思っているのに、周りは私達姉妹を比べるから、その時だけは嫌で嫌で堪らなかった。

 そんな私を姉と比べることなく、むしろ同等に見て接してくれたのが、雅虎まさとら君と挑夢のぞむ君と雅深まさみちゃんだった。

 雅深ちゃんは姉と同い年なのに、お姫様みたいに可愛くて、よく真似していたな。

 挑夢君はふわふわな感じで、いろんな事をしつこく聞いたけど、その都度分かりやすく教えてくれたな。

 虎兄とらにいは、頼りになるリーダーで、いつも先頭にいたから、2番目になりたくて追っかけ回したな。

 本当に姉さん達は憧れの存在。

 特に姉さんは特別。



「今は姉さんと私を比べる人はいないから、姉さんが言っていた通り、この学校は良い学校だって思ってる」

 突然の森枝さんの告白に、私は衝撃を受けた。

「びっくりした?」

「うん、凄く」

「まあまあ、深く考えないでー」

 へらへら笑っている。

 でも、どこか元気がない。

「私さ、みおなんと仲良くなりたくて、自分の事を話した」

 えっ?

「みおなん、私は貴女と友達に、親友になりたい!」

 パチパチと瞬きをする。

 直球で「友達、親友になりたい」て初めて言われた。

 どうしよう…。ちょっとだけ不安。

 でも、ここまで話してくれた森枝さんのことを考えると…。

 それに、悪い人ではない。

 前の学校の人達とは違うのは分かる。

 分かるけど…けど…。

「迷ってんのか?」

 隣にいる瀬戸君が問いかける。

「それとも、怖い…とか?」


 ビクッ…


 “怖い”というワードに反応して、体がビクリと震えた。

 そうだ、怖いんだ。

 この先、仲良くなって、前みたいな事が起こったら…。

 それで、私は、怖いって思っているんだ。

「私…私…わた、し…」

 はぁはぁ、ぜぇぜぇ、呼吸が荒くなる。

「大丈夫?深呼吸だよ!吸ってー」

 ゆっくり吸う。

「吐いてー」

 息をゆっくり吐く。

「吸ってー」

 すーっ…

「吐いてー」

 はぁー…

「大丈夫?」

「ありがとう」

 落ち着いた。

 こんなに良い子なのは分かる…でも、やっぱり…。

「ごめん、私…まだ…その…」

 申し訳ない、泣きたい。

「良いよ良いよ!」

 森枝さんはニコッと笑って。


「ゆっくりで良いから!ゆっくり、友達なろう!」


 その言葉に心がじんわり温かくなった。

「ありがとう…森枝さん」

「あ・や・こ!」

 はっ!なんか前にも名前でって言っていたなぁ。

 勇気を出して、振り絞るように。

「あっ…絢子…ちゃん」

 と、名前を呼んだ。

「それで良し!」

 ご満悦な絢子ちゃん。

「なら、俺の事もみなとって呼べよー」

「えっ!?」

 それは無理無理。絶対に無理!

「冗談だし」

「ふぇ?」

 間抜けな声が出た。腰が抜けそうになる。

「でも俺はお前と森枝のこと、呼び捨てして良いか?」

 …!?

 お、お、おおおお男の子に、呼び捨て…無理無理無理無理!

「良いよー呼び捨て!」

 絢子ちゃんはすんなりOKしてるし!

弓削ゆげは?」

 瀬戸君は確認するように聞いてきた。

 私は慌てて急いで。

「私のことは呼び捨てダメ!」

 大きな声で拒否をした。

 あっちゃ…傷ついたかな…。

 恐る恐る顔を見ると。

「清々しい拒否だな。おもしれーやつ」

 瀬戸君は笑っていた。

 安心した。

「んじゃ、このまま名字な」

 私は頷いた。

「あー、早く友達なりたーい!」

「バカか」

「人のことバカって言った人がバカなんだからねーだ!」

「へいへい」

 この2人ならー…大丈夫なのかな…。

 ちょっとは、信用…してみよう、と思う。

 

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