第20話

 文化祭当日、と言っても2日目。

 1日目は在校生だけでワイワイ盛り上がり、今日は一般来場で更に盛り上がるであろう。

 昨日は内々という事で、接客組は体育着にエプロンをして対応した。

 楽しみは取っておく、だそうだ。

 おにぎりの評判は上々で、大きさと具を選べる所とやはり味に好評価を得た。

 開店10分前。


「どうだ雅虎まさとら!」

「あー、似合ってるー」

「棒読み感」


 磯辺いそべは浦島太郎に扮していた。

 ガキ大将な感じがするが、なんか似合ってる、ムカッ。

 他もぞろぞろと着替え終えて、教室に戻って来る。

 白雪姫、シンデレラ(魔法前の格好)、アリス、桃太郎、王子様、ゴスロリと言ったコスプレ。

 あとは、動物の着ぐるみ(ウサギ、象、犬、熊、サル)もいて。

 何でもありだなーと思い。


「ほーら!頑張れ琴坂ことさかさん!」


 おっ、ようやくだな。と思って出入口を見ると、廊下で何やら揉めてる?


「ま待って!心の準備がまだ…うわぁ!」


 宮司みやじが琴坂の背中を思い切り押し、琴坂を教室の中へ押し込んだ。


「あっ…えーと…」


 俯いて恥ずかしそうにしている琴坂。

 これはこれは、赤ずきんではないですか!


「似合ってる」


 ボソッと呟いたのに、何故か教室中に響いた。

 すると琴坂は顔を上げて「ほんと?!」と俺に詰め寄ってきた。


「でもなぁ…」

「えっ…」


 うん、これ邪魔。

 不安そうにする琴坂を無視して、俺は彼女にかけてあるヤツの両脇を摘まみ、ゆっくりと外した。


「「「わぁ…」」」


 クラスメイト達(特に男子)が感嘆する。


「更に可愛くなった。見えるか?」


 眼鏡を外しました。

 真面目でお堅い赤ずきんから、幼さが残る可愛らしい親しみのある赤ずきんに変身した琴坂。

 眼鏡を外しただけで更にレベルアップするなんて…尊い。


「見えるよ、近くなら」

「なら周りは?」

「だいたい分かる、大丈夫」

「よし」


 琴坂に眼鏡を返し、彼女の頭をポンポンして、俺は用事の為に一旦教室を出た。

 その後、みんなからキャーキャー言われて大変だったらしい。

 琴坂に、居なくなるなんて!と、めっちゃ怒られた。



「あー、とらちゃんじゃーん」


 なに食わぬ顔で言う杏子きょうこ


「へいへい」


 呼んだのお前だろうが全く。


「虎ちゃんのクラス、すんごい評判じゃん?」

「おにぎり、大勝利なんでな」

「簡単かつ美味しいとか憎い」

「おにぎりナメんなし」

「奥が深いからねー」


 何故呼ばれたのか。

 それは手伝って欲しい事があるらしく。


「午前だけさ音響やってくんない?」

「音響なら、まぁ良いけど」

「さすが元放送部」

「中学の時だけだし」


 音響機材は一通り覚えてはいるから、扱いをおさらいすれば出来るだろう。


「んじゃさっさと体育館行くよー」

「あいよー」


 受付の仕事はさておき、自由時間が…とほほ…。


 この時の俺は、午後に何が起こるかなんて、何も知らない。

 気付いた時には時すでに遅し…。

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