第243話 目覚め?と父?

 唇に柔らかな感触を感じた気がした。レンは、目を見開く。自らが地面に寝ていることに驚きながら目を見開く。


「どこだここ?」


 周囲を見渡すと霧で覆われており、真っ白という感想しか思い浮かばない。


「確かディザスターを倒して、意識が……」


 すぐさま自分の最後の記憶を探る。だが、思い浮かんだ記憶から今の場所にいる原因はわからない。


「ナビゲーターさん、ここ……どこ、か?」


 頼れる相棒に声をかけてみるが、返事がない。いつも感じていた彼女の存在すらも感じられない。王都で意識を失った時は、ナビゲーターさんの声が聞こえた。


「魔法とかスキルの影響か?」


 疑問を口にしていると周囲の霧が晴れだした。光が見えることから自分の場所もわかるだろう……そう思った。


「おいおい、これは……雲なのか?」


 霧が晴れたと思った。だが、それは違ったのだ。周囲には、浮いた島がたくさん漂っており、ここが地上ではないことを表していた。



「どういうわけか、こっち側に迷い込んだみたいだな」


 後ろから声がかけられる。気配を感じなかった。いつの間に……とレンは思いながら後ろに振り返る。


「誰……だ?」


 だが、その顔は知っている者だ。


 リディエル神聖国で、マサトに殺されそうになった時に母から貰ったペンダントから現れた人と同じ姿。


「嘘だろ……いやいや」


 頭がついていかない。


「まあ、100年以上も会ってないとな〜、あ!そっちじゃ10数年くらいか?」


 と笑いながら言う。


「本当に……」


 と呟くレンに対して


「よう、レン。お前のお父さんだぜぃ」


 ニヤッと笑って言うのだった。





「えー」


「おいおい、なんかガッカリしてないか?お父さんショック受けるんだけどなぁ〜」


 レンの反応を見て目の前の男が答える。


「父さんってこんな性格だったか……予想外だ」


「俺の名前は、ライ・サトウ。愛する妻の名前は、レミ・サトウだぁぁぁぁ!」


 お母さんの名前を特に強調して叫ぶ。誰かが見ていると言うわけでないが、恥ずかしくなる。


「わかった、わかった!もうちょっと声を抑えて!」


 とレンが言う。


「はっはっ!まあ久しぶりに大事な息子に会えたんだから許してくれよぉ!」


 笑いながらいつの間にか隣に移動してバシバシと肩を叩いてくる。


「痛ぁぁぁ!それに動き速い」


 とレンは、一歩下がる。



「それじゃあ、改めて久しぶりだな!レン。まあ、お前も子供だったからあんまり覚えてないのは無理もないだろうけど」


「まあ、そうだね……てか、ここはどこなんだ?父さんがいるってことは、やっぱり」


 と聞くと父は頭を縦に振る。


「ここは、あの世ってやつだな!地獄にようこそって感じかぁ?」


「父さん地獄に落ちてたってお母さんに言ってやるからな」


 風景的に地獄には見えない。


「ははっ!良い返しをするじゃないか、さすが俺の息子。まあここは地獄じゃないさ。あの世であることに間違いはないがな」


「じゃあ、俺も死んだとか?まだやり残したことしか無いんだけど!」


 さすがに、これで終わりは辛いと思っていると、


「いやレンは、向こうで眠ってるだけだ。神との一時の融合で、身体の負担が半端ないだけでその内起きるだろう」


「そうかぁ、それなら良かった」


 ほっと胸を撫で下ろす。


「だよなぁ!やっと彼女も出来たんだもんなぁ」


「え?知ってんのかよ!」


 自分の生活が覗かれていると思うと、なんとも言えない。


「まあ、プライベートは大事だからな〜。そこは気をつけてるよ!」


 と笑って答える。どこまで信用して良いやらと思う。



「それにしてもどうして俺があの世に来れたんだ?」


 最初の疑問に立ち返る。


「俺にもわかんねぇぜ?まぁ、神と合わさったし、奇跡でも起こったんじゃないか?」


 能天気な答えが返ってくる。こうなると誰にもわからないだろう。


「そうだ!お母さんにもらったペンダント」


 と言いながらレンは、首に下げているものを取り出す。


「お!懐かしいなぁ、母さんに渡したんだ。俺の寿命は、長く持たないしよぉ。それ、役に立ったろ?」


 と言ってくる。


「うん、死ぬかと思った時に助けられた。ありがとう、父さん」


 ここは素直にお礼を言うのだった。もう会えないと思った人に会えた。きちんと言いたいことは言うべきだと思ったのだ。


「やめろよ、照れるなぁ」


 と嬉しそうな父の姿があった。その笑顔を見て、レンも嬉しくなり、顔が綻ぶのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る