第225話 迫る死と形見
「は?」
痛みよりも先に驚きをレンは感じた。自分が何の反応も感じ取ることが出来ない攻撃だったのだ。
攻撃を喰らったのは、レンの右腕だった。少し外れていれば身体が吹き飛んでいたかもしれない。
『マスター、痛覚無効を発動します。同時に再生も発動します』
ナビゲーターの声を聞きながらもレンは地面に膝をつく。髪の色も白から黒に戻っていた。
武道大会でクシフォンに喰らった攻撃の比じゃないダメージにレンの状態も一気に最悪なものとなった。
「今の攻撃は、一体……」
出血に頭がクラクラするのを感じながら呟く。マサトに攻撃を繰り出すような素振りはなかった、それにここまで強力な攻撃が出来るなら初めからやっていることだろう。
『攻撃の起動を測定するに、ここにマスターが飛ばされる前にいた場所からのものであると想定します』
「なら、ある元帥って奴の攻撃……ここまで届かせるなんてとんでもない化け物じゃないか」
マサトがこちらに向かってくるのを感じた。負傷したレンを見逃してくれるほど優しくはない。
(まずい……殺される)
身体がまだ動いてくれない。
マサトの手に黒い炎が現れる。今まさにトドメを刺そうとするかの様子だ。
「どうする……これは、もう駄目か……」
神女の神託が思い出される。3人の内誰かが死ぬことになると……
「自分なのか?もう何も出来ないのか……」
もう目の前にまでマサトがやってきている。自らの命も持って数秒だろうか?と思わずにいられない。
マサトが黒い炎の魔法をこちらに向かって放とうとする。まだ避ける力すら戻っていないレンは、ただ呟くのみだ。
「ごめん、みんな……エリアス」
余りにあっさりとした終わりを恨みながらも終わりを待つ。
痛みを感じないため、痛覚無効が働いているだけだと思った。感じないだけで、今自分は燃えていっているのだろうと……
目を開けるとまだ自分は無事だったのだ。まだ生きていることに驚きつつ前を向くと、マサトとレンの間に誰かが立っている。
「誰だ……俺?」
自分に似ている人物が目の前におり、見入ってしまう。それに目の前にいると言っても立体映像のように透けており、向こうのマサトが見えるのだ。
ヒュウヒュウ……
と音を立てて、レンの胸元からネックレスが出てくる。母から渡された父の形見で、赤く光っている。
「まさか……父さん?」
静かに呟くと、立体映像の人物は優しい微笑みをレンに向け、マサトに向かっていく。
マサトの黒い炎すらあっさりと消し去り、マサトを絡めとって遥遠くまで飛んで行ってしまった。
『マスター今のは……』
ナビゲーターさんの言葉で、意識がハッキリとしてくる。マサトは、どこかに飛ばされてしまいレンは、ポツリと街中に残されていた。
「死ぬかと思った……」
息を吐き出して今自分が生きていることを実感する。
「ホッホッ、何とも運の良い小僧よのぉ。まさか、生き残るとは。さて、ワシも帰るかのぉ」
嬉しそうに元帥が笑う。
元帥の前では、アルファード達が怪我を負いながらも諦めずに立っていた。
「おい!散々勝手なことしといて帰るんじゃねぇ」
アルファードが剣を振りかぶり、攻撃を放った。
「ワシも暇じゃないのだよ」
杖でアルファードの攻撃を受け止めて、跳ね返しながら答える。
徐々に元帥の周囲の空間が歪み始めていた。
「ホッホッホ、急いで小僧を拾いに行った方が良いぞぉ。まあ、そんな暇があるかわからんがのぉ」
と言い歪んだ空間の中に入っていってしまった。
「去ったか……すぐにレン殿の捜索をしろ!治療出来る者も連れて行け」
依然として魔族と聖騎士の戦いは続いているおり、聖騎士にも被害は出ているが魔族よりは確実に少ない。
「おいおい、このタイミングかよ……」
空を見上げるアルファードの言葉に、フェインドラもすぐさま空を見上げた。
リディエル神聖国の上空が徐々にひび割れ始めていたのだ。
周囲の聖騎士達からも驚きの声が上がる。
「あれが、魔門……」
多くの者が今、空に現れる門に釘付けになるのだった。
「開いてしまったか……」
ふらふらとアルファード達のもとに向かっているレンも空を見上げながら呟くのだった。
まだ災厄は始まったばかり……
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