第206話 聖女の拳と英雄のスキル
「隙有りだよ」
とレンに忠告する声がした直後に、レンの脇腹に痛みが走る。
「ぐあっ……」
と声を漏らしてレンは、地面に膝を付いた。脇腹を拳で殴られたのだ。
「うーん、まだまだ鍛えないとだね。改善点があるよ」
と言われる。
「はい……聖女様」
痛む脇腹を押さえながらレンは立ち上がる。まさか、ここまでの攻撃力があるとは思わなかった。
「まあ、気絶しなかっただけマシだね」
と聖女ネーヴァンが続ける。レンは、聖女であるネーヴァンの攻撃を受けて膝を付いたのだ。
「効くだろう?レン。ババアの攻撃はよ!」
と近くで見ていたアルファードが声をかけてくる。目に同情の色が含まれていたため、彼も被害を受けたことがあるのかもしれない。
「あんた、後で覚えときな!さて、レン。続けようか?」
「は、はいぃぃ!」
とすぐさまレンは返事をする。
「こえーから、俺は退散するわ」
と言ってアルファードは、どこかに行ってしまった。
どうしてこのようなことになっているかと言うと……
武道大会が終わった後に聖女であるネーヴァンに体術を習いたければ教えてやろうと言われたため習いに行った所、かなり厳しめの修行となっているのだ。
数日前から始まったネーヴァンとの修行ではあるが、初めは何度も腹パンで意識を刈られた気がする。
若干の油断もあったかもしれないが、とてつもない威力の攻撃を当ててくる。しかもレンの拳による反撃は、なかなか決まらない。
武器と拳では扱いが違うのだろう。
「下手したらアルファードさんよりも強いんじゃ……」
とレンは呟いた。自分はそこまで強くないのではないかという思いが膨らむものだ。
「まあ、こんな所にしておこうかね。レン、後は体力をつけなよ。スキルに頼らないようにね」
と言われて解放される。
身体強化などのスキルは、自分の元の能力に左右されるため少しでも自らの身体能力を上げておくことによりさらにスキルを使った時に強くなれるとのことだ。
「まだスキルに頼りすぎだね。スキルに頼るのが悪いことではないんだけど、自分自身を磨くのも大事だからね」
とアドバイスをもらう。
元が1の能力をスキルで2倍にしたのと、2の能力をスキルで2倍にしたのでは当然差が開く。アルファードなどの上位の人物に追いつくためには、スキルの熟練度も大事だが元の力も上げることが必要になるようだ。
挨拶をして、レンはネーヴァンの元を去り自主練に入る。ネーヴァンは、今度はルティアの修行を見に行ってることだろう。
「レン・オリガミだ!」「この前は格好よかったぜ!」「決勝は惜しかったな!」
と良く街の人に声をかけてもらえるようになった。やはり武道大会での活躍の効果が大きかったようだ。
「良いもんだな」
とレンは呟く。
『エリアスは、告白を街の人に何度も祝福されて恥ずかしいと言ってましたね』
確かにエリアスの告白の話を街の人に言われた時はレンも恥ずかしかったものだが、良いじゃないかと思うことにした。
「よお、レン。ババアのしごきは終わったか?」
目的もなく、レンが街中を歩いているとアルファードが声をかけてきた。決勝で戦った2人が合流したことにより周囲からの視線が熱い。
「結構ひどい目にあったんですからね?」
ネーヴァンのパンチは、全身に響くものがあった。その原因にはきっとアルファードがババアと言ったことも含まれている気がするのだ。
「まあまあ、すぐに回復魔法をかけるだろ?怪我が治れば問題なしだ!」
アルファードがサムズアップする。戦う時は真面目な一面を見せてくることもあるが、普段は本当に英雄か?と思ってしまう時もある。
「それはそうですけど……」
と不満げにレンは答える。確かにダメージを負えばネーヴァンの回復により治された。聖女の回復はとても優れたものだ。
「ちょっと外に遊びに行こうぜ。俺のことも教えてやるから」
とアルファードが肩を組んできたため、そのままついていくことにした。
王都の街から出て、2人は平原にやって来ていた。
「さてと、この前の俺のステータス外スキルについて教えてやろう!」
と楽しげな表情でアルファードが言う。
「あれ、気になってたんですよね!教えてもらえるんですか」
「ああ、そうだな。まずレン、俺に魔法を撃ってくれ!」
短剣を取り出しながらアルファードが言う。何かするつもりなのだろう。
「これくらいで良いですか?」
と言いながらファイヤボールを作りアルファードに見せる。
「ああ、良いぞ!来い」
と言ったので魔法を投げると短剣であっさりと切ってしまった。
「これでどうなるんですか?」
さっぱりわからないため聞いてみると
「まあ、見てろって!ステータス外スキル発動!」
と言いながらアルファードが短剣を振るうと、地面に穴が空いた。たかだか短剣を振ってでる威力ではない。
「俺のステータス外スキルはな、任意の武器なんかが受けたダメージをチャージして倍にして放出することが出来るんだ」
と説明する。
「じゃあ、決勝戦で放ったのはそこまで受け止めてた俺の力ってことですか?」
「ああ、あれはレンの力を利用させてもらったぞ。まさか、あっさりとレンに止められてしまったのは予想外だったよ」
残念そうにアルファードが呟く。
強力な攻撃を喰らわなければ、発動しても意味のないものになる。少し使いこなすのが大変そうではあるが、とても強力なスキルであることは間違いないとレンは、話を聞いて認識するのだった。
「あれを止めるの結構大変だったんですよ?」
殆どのMPがなくなった決勝戦の最後を思い出す。
「まあ、良いじゃねーか!カラクリも教えてやったんだから」
とアルファードが笑うのだった。
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