第191話 準決勝とエリアスの宣言
「決勝戦でスティグマが襲撃する?それは誠のことか?」
王城……そこで、レンが国王に説明を行う。周囲には、国の兵士や救国の英雄達も集まっている。
もちろん、エリアス、ルティア、ミラもいる。
「はい、私とレンが先程遭遇し聞きました。相手は、スティグマ戦闘部隊筆頭サジャード。狂人です」
とレミが説明する。
「そうか……光明の魔女殿にレン殿が言うことだ。真実だろう……しかし、困ったな」
国王が自らの髭を触りながら悩みこむ。襲撃がすでに確定してしまっている。兵士にスティグマの捜索をさせているとはいえ、見つかっていないのだ。
「確実に武道大会をやらなければ被害が大きくなるだろうね」
と聖女ネーヴァンが言う。
「だろうな、決勝戦やってスティグマが来たら潰す……それしかないだろうな」
アルファードが言う。
「でも、それは観客を巻き込むことになるわ。それもそれで不味いわよ」
フィレンがため息を吐きながら言う。
「ならば、私がなんとかしようじゃないか!自慢の結界でみんなを守って見せるさ」
ドーンと賢者カラミィが胸を張って言う。
「私は、蹴散らすことだけに集中しましょう」
ハルカは、すでに戦闘したいとでも言うような雰囲気が感じられる。
「相変わらずの血の気の多さだな」
アルファードが若干呆れていた。ハルカの戦闘狂は、周知のようだ。
「レン……大丈夫だったの?」
スティグマとの戦闘があったことをエリアスは心配しているようで声をかけてくる。
「ああ、お母さんもいたし大丈夫だったよ」
さすがに相手がエリアスの村を滅ぼしたスティグマの生き残りであるということは言わない方が良いかもしれないなと思いながら黙っておく。
「襲撃かぁ……怖いなぁ」
ガタガタとミラは震えている。
「最近始めた修行の成果を出しなさいよ!」
とルティアがミラに言う。
「出来るだけ兵士や冒険者の協力をもらってギリギリまでスティグマの捜索を続ける。だが、見つからなければ決勝戦で迎え撃つしかない」
と国王が言った。確かに、もうそれしかやり方はないだろう。
「明日、準決勝が始まる前に観客にはそのことを伝えたいと思う。もし、決勝までにスティグマを発見出来なければみなに協力してもらう」
『はい』
と一同が返事をして解散となる。
「試合に集中出来るかなぁ……」
帰りながらレンが呟く。
「こんなことになるとね……」
とエリアスも同じ気持ちの様だ。
「仕方がないわよ。それに、エリアス!明日は本当に大切な日になるんだからしょぼくれちゃダメよ!」
とルティアがエリアスに言う。何がそんなに大切な日になるのだろうか、レンにはわからなかった。
「頑張ってね、エリアス!みんな応援してるよ」
とミラもエリアスを励ます。
「うん、そうだね!頑張るよ」
女性陣を見ながら、自分は応援してもらえないのか……とレンは思うのだった。
その後、宿で食事を取るなどして1日を終える。レンはなかなか寝付けなかった。
翌朝、武道大会準決勝……
「どうやっても今日で決勝戦までいくわよね」
朝食を食べながらルティアが言う。
「ええ、適当に長引かせてもスティグマが変な動きをするかも……」
とミラが答える。ルティアとミラは、いつものおちゃらけた感じはなく真面目なトーンで話している。
レンとエリアスは、黙って食事を食べていた。自分もエリアスも今日のスティグマのことで緊張しているのだろう……とレンは心の中で思う。
レミは、すでにスティグマの捜索に出ていた。先に見つけ出して叩くためだ。だが、それは失敗に終わると考えていた方が良いだろう。
『サジャードという人物は、龍に乗っていました。とすると、スティグマが空から襲撃してきた際には地上を探すこと自体無意味ということになります』
ナビゲーターさんの声がなる。
敵は、王都の外にいる。それはあり得ることだろう。数人は潜入したものもいるだろうが、ただでさえ武道大会で人が多い状況でそんなものを探すのは一苦労だ。
『さあ、王都武道大会も準決勝までやって来ました!ここまで数多くの猛者達の試合を見てきましたが、さらに熱い試合が見れることでしょう。そして、ここで国王より会場の皆様にお話があります』
会場は、盛り上がりを見せる。ここ数日でも最高のものだろう。
『会場に集まってくれた諸君、おはよう。これからするのは、良くない話だ。昨日、我々にスティグマから宣言がなされた……武道大会の決勝戦で襲撃するというものだ……』
会場にざわめきが走る。当然の流れだ。
『大会を中止にした場合は、即王都に攻撃を仕掛けるとの脅しもついてきた。だが、私はこれは奴らのミスと捉える。この場所には、これまで多くの修羅場を超えてきた戦士達がいる!救国の英雄……それ以外にも若き冒険者達が!彼らならばここを確実に守れると信じている』
おお……!と会場から声が聞こえる。
『もし、私の言葉を信じることが出来なければこの会場を後にして王都を出ても構わない……奴らに狙われることはないだろう。だが、もし信じてもらえるなら、この場に残って王国の歴史に残るであろう戦いを見届けてはくれないか?私からは以上だ』
と国王の挨拶が終わる。
中には、会場を出る者もいたが、多くの人が会場に残っていた。国王や救国の英雄を信じているのだろうなとレンは思う。
『さあ、気を取り直してやっていこう!準決勝第1試合だぁ。対戦するのは、エリアス選手とレン選手だ!』
わぁぁぁぁぁぁ!
と歓声が上がり、レンは嬉しくなる。
「頑張ってね、エリアス」
「大丈夫だよ、エリアス」
「ファイトなのじゃ、エリアス」
「蹴散らしてしまいなさい、エリアス」
ルティア、ミラは当然のこと、クシフォンやフィーズまでエリアスを応援している。
「誰も応援してくれない……」
なんか目が水魔法を放ってる気がする……
「レン、頑張ってね!」
と声がしたので、嬉しくなって見るとレミだった。お母さんかよ……と思いながらレンは舞台に向かう。ありがたくはあるが……
円形になっている周囲の観客席を見てみると、救国の英雄の面々が散り散りになって立っていた。スティグマに対する警戒だ。いつでも対応出来るようにしている。
『なんとこの2人同じクランに所属しているのです。素晴らしく実力で今大会を盛り上げてくれます!』
迷宮都市のみんなは元気かな?なんて思う。きっとこの試合のことも届いていることだろう。
「いよいよだね、レン」
「ああ、負けられないな」
レンとエリアスが舞台で向かい合う。
『まずは、レン選手!突如フェレンスに現れ黒龍を討伐し名を挙げた冒険者です。その異名は、破黒の英雄!大注目の選手です。そして対するは、エリアス選手!同じく黒龍討伐で活躍した冒険者で、断黒の刃の異名を持っています!今大会、最大の熾烈な戦いが期待されます!』
「おおお!」「がんばれ!」「カッコイイ!」「素敵ねー!」
観客は、スティグマのことは忘れているのではないか?とすら思えるような元気だ。
『そろそろ試合を始めようと思うが、ここでエリアス選手からレン選手に話があるそうだぁ!』
そういえば、先程からエリアスが実況などが使っているマイクのような魔法道具を持っていることが気になっていた。
「どうしたんだ?」
自分に言いたいことがあるなら普通に言えばいいのにと思いながら頭を傾ける。
『あっ、……ええっと、私、エリアス・ミリーからレン・オリガミに伝えたいことがありこの時間を作ってもらいました……』
とエリアスが話し始める。
(なんだ……何が始まる?)
レンは頭の中で困惑し始めた。
『私は、なかなか素直に言葉にすることが出来ないので、この場で思い切って言おうと思います。私は、今からレンに死ぬ気で立ち向かいます!』
(ほう……だから全力で俺も来いと言うことか?)
単純にレンは思った。
だが、直後にこれまでの異世界の冒険で最も驚き慌てることになる。
『私がレンに勝たせてもらいます!なので、私が勝ったら結婚を前提に付き合ってください!』
と力強く言い切る。
「なるほどね、予想通りだ…………えええええええええええええ!」
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