第189話 想定とサジャード遭遇

 準々決勝終了後……


 レン達は、宿に戻ってきていたが精神的に疲れておりベッドでぐったりとしていた。


「まさか、帰りに貴族に声をかけられるなんてな……」


 貴族達の考えはシンプルだ。やはりレン達と友好を深めたいというものである。武道大会でのレンやエリアス達の活躍は目を見張るものでそれを是非とも味方に引き入れたいと言うのもわからないでもない。


「でもみんなルティアを見たら引き下がったよね」


 とエリアスが言う。第3とはいえ、王女なのだ。王女が共にいる相手に貴族がでしゃばることは良くないようだ。


「まぁ、そこまで悪い人たちじゃないとは思ったけどな」


 ラノベなんかで目にする悪徳貴族ではなかったのがよかった。無理矢理な要求とかじゃなく、良かったらと声をかけてきたので好感を持てる。


「でもね……貴族の令嬢がなぁ……」


 エリアスは若干不満気味だ。貴族の令嬢がレンに向けている視線が気に入らなかったのだろう。明らかな誘惑を感じ取り不機嫌なのだ。


 ルティアがエリアスに、


「明日の準決勝が終わればそう簡単にレンに誘惑出来るやつもいなくなるわ」


 と言っていたのは正直とても気になった。どうしてなのかさっぱり分からないのだ。



「気にしすぎてもな、ちょっと修行してこようかな」


 とレンは起き上がる。


「なら私もハルカさんの所に行ってこよう」



 ということになった。




 トントンと母のいる部屋をノックしてみるも返事が無かった。多分出かけているのだろうと思い外に出ることにする。


「みんな外出してるな……」


 エリアスは、もちろんのことルティアやミラもそれぞれ修行に励んでいる。レミは、レミでスティグマの捜索に向かっていることだろう。



 結局魔族についても分からないことが多い。兵士などを多く派遣して王都の捜索に励んでいるようだが、人が多すぎる。


 特徴であるツノを隠されればそれだけで発見は困難になるのだ。現にクシフォン達も王都の人には魔族だと気づかれていない。


 レン達が遭遇した者たちも捕まえたは良いが、他の魔族に殺されるなどしており情報を得ることが難しい状況だ。


「もしかして、まだ王都にスティグマが入ってきていないのか?」


 とレンは思った。ほんの少し潜伏していることは考えられるが大勢でいるとは思えない。もし来ているならすでに何か起きていないとおかしいとすら思ったのだ。




 王都の門から出て平原の方にレンはやって来ていた。王都の中では満足に身体を動かすことが出来ないからだ。


「明日のエリアスとの試合……これまでみたいにはいかないな」


 エリアスの動きを想定し剣を振りながら呟く。フィーズ相手にエリアスが使った、フェンリルのものと思われる力……レンですら目で追いきれない瞬間があった。


『そうですね。下手すると、一瞬で急所を……なんてこともあり得ますね』


 そうなったら嫌なもんだなと思う。


「さすがにデリートを使うわけにはいかないしな……」


 レンにとって最も規格外な効果を持つスキル……デリート。だが、もしそれを放ちエリアスを消してしまったらと考えると使うわけにはいかない。危険すぎるのだ。


『確かに、デリートの能力は危険でもある。今回の戦いでは人に対しては使わない方が良いね』


 と久しぶりのレイの声がする。


「そうだよな」


 とレンは答えつつ、他の方法を考えるのだった。


 それに、決勝に進んでも相手はチャンピオンのアルファードであることは間違いないだろう。エリアスとの戦いで力を晒しすぎると対策されてあっさりと負ける可能性もある。



 後のことを考えすぎてもいけないな……と思いながら再び身体を動かしていると上空に強力な気配を感じた。



「この感覚……お母さん?」


 母であるレミの気迫を感じ取りレンは、空に舞い上がる。



 レンが飛んだ先には、レミと……龍に乗った黒いローブを被った人物がいた。


「ヒャハッ、これはこれは……2人目のお客さんですか?少し、地上に近づき過ぎましたかぁ〜」


 華奢な姿から女性かと思ったが、声で男性だとわかる。


「レン!」


 レミがレンに気付く。


「まさか、スティグマか!」


 レンは、剣を構えながら注意深く相手を見る。乗っている龍は、種類はわからないがフェレンスで戦った黒龍と同じくらいの力を感じた。


「イッヒヒ……私達をご存知とは光栄〜。自己紹介しましょう、私はスティグマ戦闘部隊筆頭サジャードと言いますぅ。よろしくねぇ」


 男に対してレンは、どこか気持ち悪さをレンは感じた。


「何が目的なのかしら?もとより容赦するつもりは無いけど!」


 レミが杖を構えて聞く。


「そうですね〜、魔族さんとの楽しいピクニックとかどうです?シシシ……ピクニックイン王都〜!」


 と楽しそうに言っている。


「今まで見たどんなスティグマよりもヤバイ気がする」


 こいつの性格は異常だとレンは思った。その分、大きな問題と言える。


「ええ、奴は狂人よ……スティグマの筆頭でもトップレベルにイカレてるわ」


 とレミが言う。これまでスティグマと戦ってきたレミがいうのなら確実だろう。これまで戦った、シャンやマグノリアにはまだ人として心が少なからずあった。


 だが今目の前にいる男からは、異常さしか感じない。言っている言葉すら意味を成していないような気がする。


「酷いことを言いますね〜光明の魔女。ゲヘヘ……まあ、楽しくなってきましたねぇ〜」


 舌舐めずりしながら言う。レンは鳥肌が立つのを感じた。


「あなたが王都を狙うなら、ここで殺すのみだわ。私とそれに、レンもいる。覚悟することね!」


 とレミは、戦闘に入ろうとしている。


「ウェヘッ……2人がかりで私に勝てますかねぇ?」


 短剣を取り出して、サジャードが舐めだす。あっさりやられる奴がやる行為にも関わらず、サジャードがやると気持ち悪くなってくる。


「お前を倒せば王都を守ることが出来る!いくわよ、レン!」


「ああ!」


 と言いレンが前に出る。


 先に狙ったのはサジャードが乗る龍だ。龍を倒せば飛行手段を失うと考えた。


「フラッシュ!」


 レミがサジャードに向かって魔法を放ったのに合わせてレンも移動して龍に刃を振るう。


 レンの一撃が効いたため、龍の首を切断することに成功する。


「ヒャヒャヒャ、別に問題はありませんよ?」


 サジャードが空中に浮いていたのだ。


「なら!転移」


 と言いレンが消えてサジャードの真上に現れる。


「転移、貴様が使えるのか!」


 とサジャードが驚いていたが構うことなく、レンは剣を振るう。相手がスティグマ筆頭なら迷っていられない。



 だが……


「ヒャハッ……それぐらい対応しますよ〜」


 レンの剣は、サジャードの短剣に受け止められていた。ガチガチとお互いの剣から音が鳴る。


「強い!」


 レンのパワーにサジャードが対応していることにレンは驚くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る