第167話 予選会と良い拳

 すぐに王都武道大会の日はやってきた。


「緊張してきたな……」


 とレンは呟く。それなりの自信を持っていてもやはり緊張してしまうものだ。


 武道大会は、当日に受付となっており受付時にクジを引いて予選会を行うらしい。


「レン、クジはどうだった?」


 とエリアスが聞いてくる。


「ああ、俺のは……」


 クジの紙にMPを流し込むとマークと数字が表示された。紙のマークと同じ予選会場に行くことになる。MPで表示されるなんて洒落てるなとレンは思った。


「私とは違う場所だね。お互い頑張ろう!」


 とエリアスが言う。


「ああ、本戦でな!」


 と言いエリアスと別れ会場に向かう。



「サポートは、私に任せて!」


 とレンの隣でミラがやる気十分に言う。レンのサポートとしてミラ、エリアスのサポートとしてルティアがそれぞれ付いた。


「お、おお……よろしくな、ミラ」


 タオルを首から下げているミラの姿は、なんだかこの世界には相応しくないように感じた。お前はボクシングのセコンドか?と思いつつも口には出さない。



 体育館よりは小さいだろうかという建物にやって来た。これと同じ建物が他に3つありそれぞれで予選を行うことになる。


「ほぉ〜、沢山の人ですなぁ」


 キョロキョロとミラが周りを見回しながら呟く。


「そうだな。さすがは王都の武道大会だ。他の国の人もいるみたいだな」


 獣人やエルフなんかも来ている。腕に自信のありそうな者ばかりだった。



「おい、あれ破黒の英雄だろ?まさかここの予選会場かよ」


「いや、最強のアルファードがいるよりかはマシじゃないか?」


「俺もう棄権しようかな……」


 など、周囲から声が聞こえてくる。


「ふふ、レンはなかなか有名だね。仲間として誇らしい」


 とミラがドヤ顔をしている。


 ミラと話しているとレンの前に1人の男が歩み出る。


「あんたが、レン・オリガミか?」


 レンより少し歳下だろうかと思える少年だ。


「そうだな。俺がレン・オリガミで間違いないけど。君は?」


「俺は、キリードだ!俺があんたを倒してやるからな、覚悟しとけよ!」


 といきなりの宣戦布告を受ける。


「お、おお……」


 とレンは軽く返事を返す。まさかここまで思いっきり言葉を掛けられるとは思わなかったので驚いた。



「随分な自信の人だったね〜」


 とミラがのんびりと言う。


「そうだな、結構腕に自信があるんじゃないか?」


 ただのチンピラ的な冒険者達とはまた違った雰囲気を感じた。




「間もなく予選を開始しますので準備をお願いします!」


 ギルドの職員が声かけを行なっている。冒険者ギルドもこの武道大会に手伝いを行っているようだ。



 戦うためのコートが建物に2つ用意されており、そこでトーナメント形式で戦い上位4人が本選に上がることが出来るというルールだ。


「場外または、気絶した場合には敗北となります。殺人は、一発でお縄ですのでご注意ください!」


 説明を聞きながら殺意を持っている相手と戦うのは嫌だなとレンは思う。


「トーナメント表を張り出すので確認をお願いします」


 と声が聞こえた次の瞬間、建物の天井にトーナメントが立体映像の様に映し出される。


「魔法ってホント便利ね!」


「ああ、ハイテクだよな」


 魔法のない世界の生まれであるレンとミラにとってはこの世界で当たり前のことでも感心してしまう。



 大体50人を超える人数がこの会場にいるようで他の会場も合わせると200人くらいの参加者がいることになる。


「上がれるのは全部で16人……厳しい世界だよな」


「まぁなんとかなるわよ」


 ミラはかなり楽観的に言う。




 2つのコートでそれぞれ試合が開始され番号が呼ばれた順に戦っていく。レンは真ん中のためまだ呼ばれていない。


「25番コートに!」


「お!ようやく呼ばれたか、行ってくる」


 と言いレンが前に進む。


「気合入れてくよ」


 とミラが背中を叩きながら一緒にコートの近くまで進む。やはりミラは何かを意識しているなと思わずにいられない。


 コートに出るとレンの相手は、中堅冒険者的な感じの男だった。


「25番対26番、試合開始!」


「てやぁぁぁぁぁぁ!」


 すぐさま男が剣を振りかぶりレンに向かってくるが、レンにはその動きは、はっきりと見えていた。


「ほいっと」


 スッと避けて軽く蹴りを入れると、男はあっさりと場外に飛んでいくのだった。


 あまりの一瞬の出来事に会場がざわつくのを感じた。


「ナイスキックゥゥ!」


 とミラだけがガッツポーズをしているためかなり浮いていた。


「凄いな今の……」


「ありゃ、納得の強さだ」


 と参加者達が呟く中、


「25番の勝利!」


 と審判が正気に戻りコールするのだった。




 そこからもレンはあっさりと勝ち進んでいき、次に勝てば本戦に出場出来るところまでやって来た。



「ここであんたに当たるなんてラッキーだぜ!」


「あ、さっきの!」


 相手は、先程レンに声をかけて来たキリードだった。レンと戦うのを心待ちにしていたようだ。


「3番対25番試合開始!」


 と審判のコールが発されて、キリードが突っ込んでくる。どうやら拳で戦うようだ。レンもここまで武器を使ってないし、このまま拳で良いだろうと思う。


「オラぁぁぁぁぁ!」


 キリードが拳を握りしめレンに攻撃を放つがそれをレンはあっさりと掴む。


「なかなか良い拳だな」


 レンは拳を掴みながら余裕で呟く。余裕ではあるが、他の冒険者からは感じない良いものをキリードからは感じていた。


「なっ!外れねぇ、どうなってやがる」


 レンに拳を掴まれていることに驚きの声を出す。


「単純な力の問題かな?」


 とレンは答える。レンとキリードではスキルなどの力量が大きく違う。当然大きな差が出るのだ。


「くそっ!これなら」


 もう一つの拳で攻撃してくるが、それもレンは余裕で掴む。


「なかなか見所を感じたな。だけど、終わりだ!」


 と言いレンは、キリードを力で投げ場外に落とす。


「勝者、25番!本戦進出です!」


 と審判が言いレンの本戦進出が決まるのだった。

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