第137話 無害と52階層

「速すぎて見えなかったわ……」


 ルティアがゆっくりと呟く。


「私も全く見えなかった……」


 レンとエリアスの2人のドライアドとの戦闘、2人が剣を構えスキルを発動した所までは見えていた。だが、その後の2人の動きまではわからない。


「良くついてこれたなエリアス!」


「少しでもレンに追い付きたいから」


 とレンとエリアスが話す。2人は、飛んでくるものをひたすら斬り続けて大樹まで辿り着き、切り倒した。



 斬り裂かれたツルなどが地面に落ちており、戦いの激しさを物語っている。



「参ったわね……さすがに降参よ」


 小さくなってしまったドライアドが大樹から出てきていた。力を失ったという感じなのだろうか……


『すでにマスター達を害する力はありません』


 とナビゲーターさんが言ったのでレンは、そのまま伝える。


「あら、随分とまぁ小さくなったものね。小さすぎて見えないわぁ?」


「本当だね!うっかり踏んでしまいそうね〜」


 ドライアドが戦えなくなったと分かるとルティアとミラが煽り出す。2人してドライアドを踏みつぶそうとする始末だ。


「あ、危なっ!ちょっと待ってください。ああ!」


 ドライアドが必死に踏み潰されそうになるのを回避していく。


「あの2人……」


 レンはため息をつきながら呟く。


「なんか、ドライアドがかわいそうに見えてきた」


 と隣でエリアスが言う。



「さっさと燃やしましょう!」


「それが良い。私達を食べようとしたんだもの、燃やされても文句ないでしょ」


 ルティアとミラが杖を構えてドライアドを挟んでいる。


「ヒィィィ!助けてくださぁぁい。52階層への扉を開けますからぁぁ」


 とドライアドが言った後、正面で扉が開く音がした。


「しょうがないわね。今回は勘弁してやるわ」


「次は、燃やしますよ?」


 本当にルティアとミラは、調子が良い奴らだとレンは思いながらも扉に向かって進んでいく。



「2人とも行くぞ?」


 ドライアドに何かしそうなルティアとミラを引きずってレン達は、51階層のボス部屋を後にするのだった。




「二度と来るなよ、ちくしょう!」


 レン達が出て行った後、惨敗したドライアドが叫ぶのだった。





「何か聞こえた気がしなかったかしら?」


 52階層に着いた瞬間にルティアが後ろを振り向きながら言う。


「誰も喋ってないと思うけど?」


 とエリアスが答える。レンとミラも、聞こえなかったと答える。


「ドライアドに悪口でも言われてるんじゃない?」


「だとしたら、今度会ったら燃やしてしまうわ」


 ミラの意見にルティアが答える。なかなか野蛮な考えのお姫様だ。


「それにしても、何だがすごい場所だよね」


 とエリアスが周囲を見回しながら言う。


 そう、現在レン達が立っている場所は、小島のようの所でそれを囲むかのように周囲には水しか見えない。


「ここは、海か湖なんだろうか?」


 レンは、呟きながら水に手をつけてみる。水は、とても冷たく気持ちの良いものだった。


「水が透明で凄いわねぇ!それにしょっぱくないから湖だと思うわ」


 早速、水を舐めたと思われるルティアが答える。


「これ、進むの大変じゃない?」


 とミラが遥遠くを見ながら呟く。これまでの迷宮探索でここまで深い水の階層はなかった。


「泳ぐか船でも持ってくるしか無いんじゃないか?ああ、俺は空を飛べるから良いんだけどな!」


 と言いながらレンは、浮き上がる。


「「「ずるい!」」」


 と3人に同時に言われてしまう。



「魔法だからな……まぁどうにか対策を考えるとしようか。それに今日はキリもいいからここで帰るとしようか?」


 とレンが提案してみる。


 全員の賛同を得ることができ、帰ることになった。





 ギルドでは、迷宮についての情報を報告することで、クランの功績になることもある。なので、レン達は、51階層と52階層の情報を伝えるのだった。


「情報の提供感謝します。これで少しでも死亡者が減ってくれると私達としても嬉しいものです」


 と受付嬢が言う。

 どの世界においても情報というものはとても大切なものだ。商売を行うにも、迷宮に挑むのにも情報の有無で大きく結果が変わっていくのだ。


 ルティアとミラは、いかに51階層ボスのドライアドが極悪な存在であるかを受付嬢に熱く語っていた。もう恨みでもあるのだろうかと思えてくるくらいだ。




「お力になれたのなら良かったです。魔物の買取もお願いします」


 と言い、ランドスネークを少し取り出して売却する。


「いつ見てもグロ……いえ、なんでもないです。買取をさせてもらいます」


 と受付嬢が引き気味で言っていた。



 ギルドを後にしながら、耳を澄ませていると徐々に51階層に入り始めている冒険者も出てきているとのことだ。



「でも、ランドスネークの群れはそうそう突破出来ないんじゃないかな?」


 とエリアスが言う。


「まぁ、ソロでは無理だろうな」


 とレンが答える。あの数をソロで越えられるのはかなりの技量が求められる。


「レンなら1人で余裕ね。エリアスもいけるんでしょ?後誰かいるかしら?」


 とルティアが言っている。


「実力的にアンナも突破出来ると思う。彼女の実力もかなり高い」


 とレンが説明する。実際に戦ったわけではないが、見た所なかなかの技量を感じた。


「あそこをソロで突破出来る人が3人もいるなんて私達のクランってかなり強いよね」


 とミラが嬉しそうに言う。


「この迷宮都市の冒険者の数なら、実力者は多いかもしれないぞ」


 と喋りながらクランハウスに帰っていくのだった。

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