第119話 呼び出しと罠

「もう特に気になることはないかな……」


 ステータスを閉じながらレンは呟く。なんとなくステータスは、1人で確認したくなるのだ。


『戻るとしましょうか。これから忙しくなります』


「そうだね。転移!」


 レンが転移を発動してその場から掻き消える。



 次にレンが現れたのは、宿のレンの部屋だった。


 その直後に部屋にエリアスが入ってくる。レンの気配を感じ取り帰ってきたと分かったのだろう。それにしても速い。


「おかえりなさい、レン。さっき、真紅の宝剣の使いで来たって人が来たんだけど……」


 と言っている。


「早速来たか……スティグマが絡んでるし、多分ユニークスキルのこととかを聞きたいんだろうな」


 もしかしたら何か仕掛けてくるだろうと思っていたが、やはり行動が早かった。


「罠だよね?」


「だろうな……場所とかは言ってた?」


「真紅の宝剣のクランハウスに来て欲しいって」


 良い予感はしない。


「まぁ、自分のホームがやり易いだろうからね。だけど今回はそれに乗ってみるか」


 とレンは笑いながら答える。


『マスターなら大丈夫です』


 ナビゲーターさんも言っているので安心だ。





 クラン、真紅の宝剣クランハウス……


「マグノリア様、申し訳ありません。どうか、どうか、もう少しだけお時間を下さいませ」


 副リーダーが水晶に向かって土下座していた。自らの命がかかっているのだ。許してもらえるなら頭でもなんでも下げるくらいの気持ちだ。


『50階層で惨敗、その後破黒の英雄が攻略……ユニークスキルも奪われる。覚悟してもらえるかしら?これは大きな損害よ』


「は……はい、本当に申し訳なく思います。厚かましい話ではありますが挽回を機会をどうかいただけないでしょうか?どんな手段を使ってでもユニークスキルを奪ってみせます」


 やるしかないのだ。副リーダーは、難しいことではあると分かりつつもそう言うしかない。


『そう、なら最後のチャンスをあげるわ。出来なければあなたは終わりよ』


 とだけ告げられ通信が切られる。


「おのれ、破黒の英雄め……なんとしてでもユニークスキルを渡してもらうぞ」


 副リーダーが呟くのだった。






 宿のレンの部屋、そこに6人が集まっていた。


「俺とエリアスの2人で、クラン真紅の宝剣の拠点に行ってくる」


 開口一番レンが行うことを言う。


「2人で?私達は、お留守番なの?」


 置いていかれることにルティアは、不服そうだ。


「ああ、何が起きるかわからないから注意するに越したことはないから。絶対に守り切れる人数が良い」


 自分でも分かっているが、かなり慎重だ。本当は1人で行きたいくらいだが、エリアスがそこは譲らなかった。


「納得するしかないかしら……」


 ルティアは、未だに不服そうだ。


「まぁ私は役立たずだから素直に待つことにするよ」


 ミラは、自分の実力を把握して納得した。



「アイリ、もしかすると君のお姉さんに会えるかもしれない。少しでも話が出来たらやってみるよ」


「お願いします、レンさん!」


 きっとアイリも真紅の宝剣のクランハウスに行きたかったことだろう。だが、自分が行ってもどうにもならないと分かっているのだ。



 不安があるとすれば、もしレンがいない間にみんなが、スティグマに襲われると考えると安心できない…


「もし、敵が仕掛けてきたら……お願いできるか?光明の魔女………ん…お母さん…」


 レンは、苦そうな顔をしてレミにお願いする。魔女と呼んだあたりでエリアスが残念そうな顔をしたからなんとか言い直したのだ。


「わかったわ。お母さんがみんなを守るから」


 少し嬉しそうにレミが答える。


「じゃあ、行ってくる」


 そのままレンとエリアスは、足早に宿を出て歩き始める。




 都市で屈指のクランともなればなかなか目立つ建物だ。レンとエリアスはそこまで迷わずにたどり着くことができた。


「大きな建物だな……」


「そうだね……」


 田舎者感を出しながら、レンとエリアスが呟く。


 クランハウスの入り口の近くには、立っている人がいる。門番みたいなものだろう。


「すみません、呼ばれたもので来ました。レン・オリガミと申します」


「入れ」


 愛想もない言葉をかけられそのまま中に入れられる。そこからはまた別の人が案内してくれた。


「この部屋で待っててください。飲み物などもお持ちしましょう」


 と言って案内してくれた男は出て行った。



「すんなりと通されたけど、ここからが問題だな」


「そうだね。穏便に終わると良いけど……」


 レンとエリアスは、部屋を見回しながら呟く。


「相手がいきなり洗脳を使ってきてもおかしくない……気を引き締めていこう」


 部屋に近づく気配を感じながらレンは言うのだった。

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