第113話 洗脳と前夜

 レン達が50階層に到達した次の日、迷宮の近くの広場では多くの人が集まりクラン、真紅の宝剣の出発式を見ていた。


「我らがリーダー、アンナ・フェロルに付き従い、我々はついに50階層のボス部屋を発見しました!」


 おおおおお!


 と都市に住んでいる人々から歓声が上がる。


「明日、我々が50階層を攻略し、この都市の歴史に真紅の宝剣の名を刻んで見せましょう!」


 記念すべき出来事に都市の人々は、とても盛り上がっている。





 レン達もその様子をしっかりと眺めていた。普通なら祝福しただろうが、スティグマに関わりがあると考えると良い顔は出来ない。


「明日に攻略が失敗することが決まってるから、私達はその後に攻略を成功させないとね」


「失敗した原因とか知らないと私達も足をすくわれるわ」


 エリアスとルティアが喋っている。


「お姉ちゃん……」


 アイリが姉と慕う人物アンナ・フェロルは、現在広場の真ん中で他のクランメンバーに囲まれている。その表情に動きはなく、都市の人が人形姫なんて言ったりもしていた。


「そうだった……鑑定」


 レンは、アンナに対して鑑定を使う。



アンナ・フェロル(人間)Lv50

 洗脳状態

HP3210/3210

MP1980/1980

ATK875

DEF410

〈スキル〉

剣術

 攻撃力上昇

 剛腕

 中級火魔法

〈称号〉

剣神の加護

 支配されし者




「洗脳状態!アンナ・フェロルは、利用されているだけか……ステータス的に彼女の力で50階層まで登ったみたいなものだな……」


 周囲のクランメンバーのステータスを見てみるとそこまで高くないことから実力に関してはアンナが1番強い。


「お姉ちゃんが洗脳!一体どうして……」


 アイリが驚きの声を上げる。


「それはわからないけど……彼女の称号なんかも良かったからだろうな。駒にするためだろう」


 剣神の加護、攻撃特化のステータス。スティグマが欲しがる人材だったのだろう。平気で人の自由を奪う……スティグマがやることだ。




「俺達も攻略の準備を始めよう。明日、真紅の宝剣が失敗した後50階層のボス部屋に挑む」


「はい……よろしくお願いします」


 レン達は広場を後にした。アイリは、アンナの意志でスティグマに力を貸しているわけではないとわかってほんの少しはホッとした様だ。



 宿のレンの部屋……そこにレン、エリアス、ルティア、ミラとアイリが集合していた。


「それぞれ準備は大丈夫か?万全の状態にしとかないとだからな」


 スティグマ、そしてアンナの洗脳……失敗が許されないような状況になっている。


「なんなら、今からアンナって人の洗脳を解いてきちゃえば?アンインストール出来るんでしょ?そうすれば、わざわざ50階層攻略の準備とかいらないんじゃない?」


 ルティアが提案してくる。


「俺のハッキングやアンインストールは、相手に一度は触れないと使えないスキルだからアンナに近づく必要がある。だけど、失敗したら相手も警戒を強めるしアンナに危害を及ぼすかもしれない……」


 アイリには悪いけどな……と付け足しておく。一度は50階層に挑ませる必要があるのだ。出来るだけ安全な方法を取りたい。守りに入り過ぎと思うかもしれないが……


「とりあえず、待つしかないね」


「待たせたわね!」


 エリアスが言った瞬間、部屋にレミが転移で現れる。驚いてミラは椅子からひっくり返っていた。


「おお!突然出てきたからびっくりしたぁ!ちょっと、お母さん。部屋に入る時はノックしてよ!」


 起き上がりながらミラが言う。


「あら……ごめんなさいね」


 レミは申し訳なさそうだ。


 2人が親子に見えてくるが、レミはレンの母親だ。なぜミラが思春期の男の子みたいな対応をするのか……


「ミラ、ふざけてる場合じゃないぞ?」


「ごめんね。レンが言わないから私が言ってみた」


 と舌を出す。レンは、言葉が出なかった。




「説明と言っても大した情報はなかったわ。明日の午前中に迷宮に入るみたいだけど、50階層自体を陣取るつもりね。他の人に横取りされないように」


 とレミが説明を始める。



 ここから先は通さん!というやつらしい。卑怯だなと思うが、数の強さが全てなのだろう。


「それは卑怯ね!魔法でぶっ飛ばしてやるわ」


 ルティアは、なかなか過激だ。まあ気持ちは同じなのだが……


「そこに関しては私がどうにかするから、レン達は真紅の宝剣が失敗した後の50階層の戦いに力を入れて」


 とレミが言う。


「直感でどんなボスとかわからないか?情報がさすがに少ないから」


 敵が分からなければ対策のしようがない。ゲームでも強敵に全くの対策なしで挑むとほぼ詰むことが多い。


「そこまで具体的にわかる能力じゃないから。力になれなくてごめんね……」


 と悲しそうな顔をしている。


「ちょっ!そんなに辛い顔するなよ。俺達で頑張ってみるから」


 慌ててレンはレミに声をかける。親の辛そうな顔は見たくないものだ。





「それじゃあ、明日に備えて休むとしようか……ここで解散だ!」


 とレンが言うと、みんなが部屋から出始める。


「えっと……レン、……ごめんなさい。なんでもないわ」


 とレミは言い出て行った。




「自分らしくなくて情けないな……俺はなんで素直に話せないんだ?」


『マスター、親との関係とは意外と難しいものです。ですが、諦めなければきっと話せるようになりますよ』


「そうだね……まずは、目の前の壁を超えるとしようか」


 1人になった部屋にレンの声が溶けていくのだった。

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