第7話 おかしなデータ
実験室でひたすら実験をして、3日目になる。
そしてその隙間時間に自分の修士論文執筆。
朝・昼・夕と食事はすべて学食。
明け方には意識が朦朧としてくるので、研究室で椅子を並べて仮眠。
3時間後には朝食、そして実験だ。
ただちょっと体臭が気になるため、太陽が昇った昼頃に下宿に戻り、身体をきれいにして着替える。そして、また研究室に戻り実験。
ニイナさんは実験室にまだ来ることができないようだ。
順調にデータは収集できてきたが、実験データの整理ぐらいはニイナさんにさせよう思い、データ整理には手を出していない。しかし、このままでは時間切れになる。私はニイナさんに整理させるのを諦め、必要なグラフを作成することにした。
……あれ?
データを整理すると、実験データがおかしいことに気づいた。
魔法強度を上げれば破断するまでの魔力付与回数は減る、はずだ。
それなのに、そうでない実験結果がいくつか出てきた。
なぜだっ!
簡略化するために実験条件を減らしていることもあり、データから傾向が一切読み取れない。
こんなことは初めてだ。
第一、ある魔力深度帯、ある魔力強度の条件下では破断に至るまでの回数が異常に多い。
同じ魔力深度帯でもそれより低い魔力強度、回数で破断しているデータがあるのに。
わけがわからない。
魔力発生器の魔法陣の組み合わせに失敗したのか?
それともデータ測定器の設定に失敗したのか?
それが今のところ考えられる原因だ。
……落ち着け、一つずつ確認していけばいい。
実験装置を停止させ、魔法陣を組み込んだ魔力発生器と測定器をそれぞれ解体する。
しかし、問題はない。組み込んだ魔法陣の破損もない。
深夜の実験室は静かだ。
私のため息だけが部屋に響く。
試しに
……問題ない。以前の実験結果と同じになった。魔力発生器も測定器も健全だ。
となると
再度新しい
今度はルリミニウム金属を
……20回程度で破断するんじゃないかな?
そう思っていたが、
おかしい。ルリミニウム金属がこんなに頑丈なはずがない。
時間はもう午前4時。
明日、というかあと数時間後にはゼミがあり、先生と顔を合わせることになる。
おそらく研究の進捗について質問を受けるだろう。
体力の限界だ。
私は正直に収集したデータを整理し、グラフを作成した。
近似曲線は流石に描けない。
実験条件と結果をプロットしただけの図を報告することにした。
下宿先に戻る体力も気力も尽きた。研究室の椅子を横に3脚並べ、その上に横になった。
数時間程度は休めるだろう――
-------
----ゼミ---
ゼミでは毎回数人が発表担当になる。
それぞれの研究の進捗を報告するプレゼンを聞き、みんながアドバイスをしたり、質問をし、時には厳しいコメントをしたりする。
まずは
この論文は
そして論文で発表した内容を――以前説明してもらった内容であるが――数式なども使ってより論理的に解説してくれた。
私の修士論文でも使うことになる理論なので、寝不足であるがなんとかして理解する。
そして、次は
彼女は魔材理論チーム所属。
理論的計算から求められる値と、実物を用いた実験値との差異を分析し、その原因について考察した研究が発表される。堅実な内容だ。修士課程に進学して欲しかったと改めて思う。何より、眼鏡女子は研究室に1人はいて欲しい。
そして、その次の発表者はニイナさんだ。
しかし、体調不良で欠席との報告が先生よりされた。
ただ、
「カイさん、ニイナさんの卒論の状況はどうですか?」
と、やはり先生から質問がきた。
データを捏造して卒論にしようとしてました、なんて言えない。
「…それが、実験データは揃ってきたのですが、何が悪いのか数値が安定しないのです。原因がわかりません」
私は実験の中身を相談することにした。
「なるほど。データは整理してありますか? できれば見せてもらえませんか?」
私は明け方に方眼紙に作成したグラフをそのまま差し出した。
「実験装置の調子が悪いのか、
すると先生はデータを見てニヤニヤとしはじめた。
……気持ち悪い。何を考えているんだろう? アダマース先生は紳士的な人だけど、研究のことになると不思議な行動をすることがある。
「いいじゃないですか! それをそのまま卒論で使いましょう。卒論はこの程度のデータでもいいでしょう。お疲れ様でした」
……えっ? これいいのか?
いや、でも再実験と言われてまた寝不足が続くのも勘弁だ。
「わかりました。でもこのデータはどう解釈したらいいのでしょうか? 『考察』に何を書いたらいいのか……」
先生は相変わらずニヤニヤしている。
「データを素直に見て、考えてみてください」
では、と先生はゼミの閉会を告げ、先生の居室へと戻っていった。
……もしかして、先生はニイナさんの卒論が卒論発表会で炎上することを期待しているのだろうか?
----
----
卒論発表会って先生方の代理戦争のような雰囲気もあって、仲の悪い先生から強烈な質問がきたりしますよね(うちだけ?)
ここで落ちるのはよっぽどですが、やはりすごく緊張した思い出があります。
あ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます