風呂は正義


 湯船の受け取りに来た。

「おう、来たな。出来てるぜ」

「ありがとうございます、拝見します」


 風呂は希望通りの出来だ。特に香りが素晴らしい。ヒノキ風呂の様な香りなのに大理石の様な感触。見た目は大樽を風呂の形にした様な感じだ。


「コレは檜石って特殊な石なんだ。石だけど木のように加工出来る。だから俺が作れた訳だけどな」


 さすがは異世界、不思議な材質があるものだ。

「控えめに言って最高ですね。ありがとうございます」

「良いってことよ、こちらこそありがとな」

 ダンカンさんと固く握手を交わす。


「しかしどうやって使うんだ? 水を引くのも大変だろ?」

「そこはこう、水魔法が使えますので」

あっという間に水が溜まる。一滴の漏れもない、さすが職人、正に水も漏らさぬ仕事だ。

「ほー、こりゃスゴイ」

「そして温めれば風呂の完成です」

 湯気が立つ、41℃の適温だ。

 

「で、排水はどうするんだ?」

「捨てませんよ」

「は?」

「キレイにするんです」

 俺も最初は消せば良いと思ってたがもっと簡単な方法があった。浄化すれば良い。そしてアイテムボックスにイン! 水温も冷めない。


 「‥‥‥」

 ダンカンさん? 

 固まってる? 戻ってきて‥‥‥


「ネロよ、一つ頼みがあるんだが」

「はい」

「今度‥‥‥その風呂に一度入らせてくれんか?」

「はあ、俺の後でも良いですか?」

「それは勿論だ、ありがとう」

 

風呂の初使用はダンカンさん家の裏庭で行なった。露天風呂だ、体洗いもそこそこに入ってしまう。


「ふぃ~」

 自然と声が出てしまう。ほんのり薫る檜の香り、春の夕暮れ、最高だな、景色はアレだが。


 気持ち良かった、作ってもらって良かった。


 作成者のダンカンさんにも入ってもらう。体を洗ってもらってからどうぞ!


「ふぃ~」

 やはり自然と声が出てしまうのだろう。


「如何ですか?」

「湯に浸かるのがこんなに気持ちいいものだとは知らなかったな。ネロ、ありがとう」


 満足そうで良かった。風呂上がりにキンキンに冷やした水を渡す。

「ゴク‥‥‥! ゴクゴクゴク。プハァー、何だ⁉︎ この水! 美味すぎる‼︎」

「風呂上がりにビールならもっとよかったでしょうけど」

「いや、この水はビールより美味い!」

「そうですか?」

「ああ、断言する。しかし少し悲しくなったよ」

「どうしました?」

「こんな美味い水飲んだら今後困るじゃねーか」

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