第28話 翌日、自宅にて
あの後、翔子を自宅に送っていった。
そして、俺が送って行った事に驚いている翔子の母親に、翔子に何があったのかを説明したんだ。
勿論、俺が『クレナイ』という事は言っていない。
翔子の母親は、泣きながら翔子を抱きしめていた。
「気がついてあげられなくてごめんなさい。」
「・・・ううん。良いの。元は私が騙されたのがいけないんだし。それに・・・総司くんが助けに来てくれたから。それよりも、何も言えなくてごめんなさい。」
翔子と翔子の母親の抱擁を見ながら、ホッとした。
・・・助けられて良かった。
落ち着いた後、もう、何も心配ない事だけ説明し、家に上がって行って欲しいという翔子の母親の申し出を固辞して、帰宅する。
「本当にありがとう総司くん。あなたのおかげよ。今度いらっしゃい?お礼をするから。」
翔子を更に美しく成長させたような翔子の母親にそう微笑まれながら言われ、少しドギマギしていると、
「む〜!」
「・・・なんだ翔子?」
翔子が俺の服をつまんで引っ張って来た。
見事に頬が膨らんでいる。
・・・表情の変化が少ない翔子がこうしているのは可愛いな・・・はっ、い、いや俺は何を考えている!?
「クスクス・・・翔子?お母さんに嫉妬しないの。総司くん?今度来てくれたら、親子でサービスするから楽しみにしててね?」
「お母さん!!」
面白がって軽口を叩く翔子の母親に、翔子が噛み付いた。
・・・やれやれ。
守ってやれて良かったよ、ホント。
帰宅すると、母さんは既に帰って、食事の準備をしてくれていた。
「翔子ちゃんのお母さんから連絡があったわよ?翔子ちゃんを助けてあげたんですってね?頑張ったわね。怪我は無い?」
「ああ、特に無いよ。それよりごめん。食事の準備が出来なくて。」
「お兄ちゃん!たまには家族を頼ってよ!それに、やらないと私の家事スキルも上がらないんだから、その機会を奪わないでよ。」
母さんと話していると、瑞希が後ろから現れ、そんな事を言った。
スキルって・・・このゲーム脳め。
食事を終え、入浴中に考える。
あの時助けてくれた『黒蜂』。
あいつにどう礼を言うべきか。
・・・約束を反故にしなければいけないのは、少し情けないものがあるが、それでも礼を言わないのは仁義に
あれこれ考えて、答えの出ないまま部屋に戻ると、携帯にLINが二件来ているのに気がついた。
開いて見ると、一件目は柚葉。
『明日、女子会して、お昼過ぎからそーちゃんちに行くことになったから、時間空けといてね?三人でいくから!』
投げキッスをしているうさぎの絵柄のスタンプ付きのもの。
・・・せめて予定くらい聞いてくれよ。
・・・まぁ、空いてるんだが。
了承した旨の返信をして、もう一件を見る。
相手は・・・『黒』と表示されている。
開くと、
『月曜日の昼食時、私の支配する部屋で。』
ただ、これだけ。
・・・あそこの事か。
相変わらずの物言いだな。
俺は少し苦笑してから、
『わかった。』
と送ると、すぐに既読が着く。
『食事持参』
『ああ。』
たったこれだけのやり取り。
それでも、懐かしい気持ちになる。
あいつとの連絡は、一年以上ぶりだ。
『黒蜂』。
それは、『クレナイ』にとっても、複雑な縁のある相手。
楽しみでもあり、面倒でもあり、・・・怖くもある。
まぁ、それは週明けとして・・・問題はどうやって昼飯時に、あいつらの目をくぐり抜けるかってとこだな・・・いや、本当にどうしよう?
答えの出ないままベッドに横になるのだった。
翌日、
「そーちゃん!来たよ!」
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔します・・・あ、総司・・・先輩のお母さん、瑞希ちゃん、お久しぶりです。また、よろしくお願いします。」
「2人ともいらっしゃい。それと、翔子ちゃん、お久しぶり!お母さん譲りの美人になったわね!よろしくね?」
「いらっしゃい!それと翔子ちゃん・・・うわぁ〜!すごく綺麗になったね!!またよろしくね!!」
昼過ぎに、柚葉、シオン、翔子が遊びに来た。
予め三人が来る事を話してあった母さんと柚葉は、またしても家に留まり、楽しそうに会話している。
・・・あれ?
俺、いらなくね?
ため息を一つして、そろりと後ろを向き階段を上がろうとした時、
「あっ!!そーちゃんが面倒臭くなって逃げてる!!」
「総司!何逃げてんの!」
「総司先輩・・・迷惑でしたか?」
憤慨している柚葉とシオン、それに、申し訳無さそうな翔子に見咎められてしまった。
「いや、翔子、そんな事は無い。ゆっくりしていってくれ。」
「うん!ありがとう総司先輩!」
・・・そういや、スルーしてたが、なんで先輩呼びなんだ?
疑問に思ったが、ぎゃーぎゃーうるさい柚葉とシオンのご機嫌取りに忙殺され、聞けなかった。
そうして、居間で談笑して過ごす。
すると、母さんが、爆弾を放り込みやがった。
「う〜ん・・・誰が総司と付き合うのかしら・・・みんな魅力的だし・・・わかんないわね・・・」
そんな風に小首を傾げながら呟きやがった。
おい!余計な事を言うなよ母さん!!
その瞬間、三人は目の色を変えた。
ほらな!!
「総司のお母さん!あたし!あたしです!!」
「そーちゃんママ!私だよ!詩音ちゃんじゃないもん!!」
「いえ、先輩方には遠慮して頂いて、後輩として総司先輩に尽くすのは私です。よろしくお願いします、お義母様。」
「あっ!?翔子ちゃんズルい!相変わらずズルい!しれっと持ってこうとするなんて!!」
「この後輩・・・侮れないわね!でも、勝つのは私よ!!」
「いえいえ・・・やはり若い力は大事だと思いますよ?」
「「この〜!!」」
あ〜・・・収集つかねぇ・・・
ポンッと肩に手を置かれた。
瑞希だ。
「・・・なんだ瑞希?」
「ねぇお兄ちゃん。いい加減諦めたら?もう無理だって、陰キャ続けるの。」
「・・・絶対に諦めん!!」
「はぁ〜・・・無理だってのに・・・」
誰がなんと言おうと俺は諦めん!
諦めんぞ!!
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