第5話 客来たりてようやく序章
〝カノン〟はシークをお館様に見立ててプレゼントされたワンピースでダンスを楽しんでいます。
シークはお館様のクローンなのでこういう時には1番適役なのでしょう。
予定では半日浴槽でダラダラするはずが軽やかに踊っています。
貴族だってこんなに呑気ではないと思いますが、カノンが思うままに出来る日常生活なのでしょうか?
不意にシークがカノンを止めて言いました
「カノン、来客だ。驚くなよ、サイだ」
「サイ様‼︎嘘じゃないでしょうね?」
「ちょっと待って」
シークが目の前の何もない空間にヒュッと指文字のような動きをすると、微かな電子音が鳴った…気がしました。
「10分後に着くようだ」
「大変!着替えるわ、ドレスを着るわ!」
「ハイハイ、オッケーオッケー」
シークがクスリと笑い
「まるでお館様に会う時みたいだ」
とワンピースをスルリと脱がしました。
たちまちカノンは顔を真っ赤に染めましたが、脱がされたせいではないようです。
シークの活躍で私はデビューしたての貴婦人のように仕上がると、ちょうど呼び鈴が鳴って『サイ』の登場です。
「初めましてようこそ、サイ様。お会いできて嬉しいです」
私は〝カノン〟に負けずにドキドキしながら挨拶をしました。
カノンが会いたがっていたサイは年上の綺麗な女性でした。
おそらく30代前半くらいかと思うのですが、若白髪というのでしょうか?長いサラサラ髪は真っ白なので独特な雰囲気です。
でも、それに合わせたオーガンディーのような薄桃色のドレスは華やかで上品な雰囲気で妖精みたいなサイのイメージを高める効果があります。
「なんか飲む?」
シークが2人に聞くと
「あなたのシークは本当にラフなのね」
と笑いました。
笑った顔は、とても可愛くて若く見えましたから、20代かもしれません。
〝カノン〟はここで長生きしてるサイに憧れと焦燥が混じる複雑な厚意を持っていて会えたことに少し興奮しています。
「あなたの自動日誌を読んだわ、自殺未遂ばかりしているのね」
サイは今日は良い天気ね、と言う軽い口調と変わらない表情と声で言いました。
「サイ様が私を知ってくださって光栄です」
〝カノン〟は軽やかに返して笑いましたが、心臓は痛くてうるさいくらいにバクバクしているのです。
〝カノン〟がまた心の中で呟きます、サイ様は私達の中では別格な人で希望の存在だけど、噂通り穏やかで慎ましいイメージしか感じないなんて…。
「お館様が珍しく悩まれてましたよ。カノンの心情が読めないと…でもそれでいいと思います。あなたは打ち上げ花火のように一瞬華やかな魅力を振りまくけれど、それはその後の静寂を印象付けるための手段になるのよ。それをあなたのテクニックにして命大切にね」
サイ様のお話と眼差しに身体ごと心臓になってしまったような反応でバクンと一度高鳴ると止みました。
〝カノン〟の思考回路がショートしたと思うほど何も感じません。
サイは私のシークが温かい飲み物を持ってくる前に立ち上がってしまいました。
来たばかりなのに、もう帰るようです。
「今までと今回の未遂の違いを気づかれていましたか?」
まだ帰ってほしくないのか、〝カノン〟が質問するとサイは口角だけ上げて頷きました。
ふと、テーブルに置いたままの『リナ』の本を見て言いました。
「また、リナを読んでいたの?」
「はい」
恥ずかしそうに〝カノン〟が返事するとサイは悲しげになり
「私達の立場は、時には起こるはずない奇跡に縋りたくなるものですね、私はその繰り返しで髪が白くなったのです。でもそれがお館様にはお気に入りなのだから、何が好転するのかわからない運命なのです、そして…」
サイは私にもわかるような強いメッセージを込めた瞳で睨むように見つめています、〝強くなるのよ〟と言う目で見守るように、そして話しました。
「昨夜、シャンテが召されましたよ」
糸を引くような細い声で付け足しました。
「リナのように…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます