199.

 鹵獲した敵人型艦載機の解析が終わり、ブルース達のスーツの改造が完了した。

 外見上はスラスターの追加や武装の大型化がメインだが、一番違っているのはインターフェイスだ。

 今まではマスク内に映像が映し出され、そこに情報が重ねられていた。

 だが今は生身の自分の姿が見えるのだ。

 下を見ればズボン、靴、上着や指が全て見えている。


「……生身で宇宙空間にいるみたいだ」


『表示領域が拡張され、普段の視点と全く同じように映し出されています。しかし実際にはスーツを装着しており、なおかつ体のように見えていますが全てスーツに身体映像を重ねただけなのです。武器を持てば分かりやすいでしょう』


 ブラウンに言われてブルースは武器一覧を表示させる。

 カシナートブレードという物があるのでそれを選ぶと、背中に背負っていた剣が肩の上から前に突き出される。

 それを右手で引き抜くと自分の手で銀色の剣を持っているように見えた。


「ブラウンブラウン! なんで⁉ なんで敵はあんなにゆっくり動いてんの!? 私達をバカにしてるの⁉」


 ローザがバズーカサイズのフォトンガトリングを構えているが、確かに敵の動きが非常に緩慢だ。

 わざわざ宇宙空間でブースターを吹かし、歩く速度で移動しているように見える。


『それはこちらの処理速度が向上しているからです』


「処理速度があがってるってなんなんだな、ダナ⁉」


『あちらは亜光速で移動していますが、こちらは意識を延長させることで実際の一秒を百万秒、簡単に言うと百万倍の速度で思考できるのです。さらに敵の亜光速戦闘はあくまでも予測に基づく行動計画を実行しているだけですが、こちらは亜光速戦闘をリアルタイムで行えます。』


「も、もう少し分かりやすく言って欲しいですわ」


『光の速度が音の速度より遅く感じるようになります』


 つまり敵人型艦載機は亜光速で動いているのだが、ブルース達にはマッハ一よりゆっくり移動している様に見えている。

 いや音速に近い速度でも十分速いのだが、今のブルース達にとって音速はあまりに遅いのだ。


「ふ~ん。つまり私達は好き勝手に敵を倒すことが出来るって事ね?」


『その通りですオレンジーナ』


「へー……なめられてる訳じゃないんだ。じゃあさ、じゃあさ、今までの仕返しをしてもいいよね?」


「ローザ、ノリノリだね」


「ブルー君だって顔がにやけてるよ?」


 顔がにやけているのは全員だった。

 今まで散々煮え湯を飲まされてきたのだから、これからは自分達のターンでいいはずだ、と。


『では私は自分のバージョンアップを行いますので、後はよろしくお願いします』


「「「「「「任せて!」」」だよ、ダヨ!」くださいですわ」ください」


 ローザは構えていたフォトンガトリングガンの狙いを定め、大量に歩み寄って来る敵人型艦載機に向けて発射した。

 だが光とはいえ今のローザ達には遅く感じてしまう。


「おっそ! 遅いけど……あはははは! 吸い込まれるように命中するよ!」


 相手はこちらの行動を予測して行動計画を立てているため、相手が光速・亜光速移動をすると計画の変更が間に合わないのだ。

 なので敵人型艦載機の移動先に攻撃を置いておけば必ず命中する。

 敵からしたら光の速度で味方が破壊されていくのは恐怖だろう。


「えっと、じゃあ私は実験をするんだよ、ダヨ!」


 シアンはそこらに転がっている破片を数個掴むと、敵人型艦載機の進路方向に数個投げつける。

 一つは遥か前方に投げ、それを敵人型艦載機が避けると少しずつ近くへと投げていく。

 すると数回目で避けずに破片に衝突した。


「五キロ先なら計画が変更できるみたいなんだな。〇.〇〇〇〇二秒で計画を作り直してるんだよ、ダヨ!」


「敵の移動中は五キロメートル以内に物を投げれば当たるんですのね? なら話は簡単ですわ!」


 エメラルダはペガサスとグリフォン、ジズを召喚すると、三体はまるで部分鎧の様に強化パーツが付いていた。

 それぞれがひと鳴きすると敵人型艦載機に突進し、体当たりで破壊を始めた。

 それどころか逃げる敵を追いかけて後ろからも破壊する。


「あら? 五キロメートルなんて関係ありませんでしたわね」


 そんな様子に敵が気付いたのは数秒が過ぎてからだった。

 亜光速で動いている味方の反応が次々に消えていったのだ。


「な、なにぃ!? どうなってんだ? なんで亜光速戦闘で反応が消えていくんだ!?」


『我らの予測行動よりも優秀な計画を立てるプログラムかもしれんな。いや、もしかしたら……』


「なんだ! もったいぶんなよ!」


『亜光速戦闘にありながら、状況判断しているのかもしれぬ』


「ああ? ありえねーだろ、んなこと」


『だが今の状況を見ると、それが一番納得がいく』


「ふざけんな……ふっざけんなよ原始人共!!」


 そんな文明人気取りの気持ちなど考える事もなく、ブルース達は次々に敵人型艦載機を破壊していた。

 ブルースとオレンジーナ、シルバーの三人は、サンプルと称して敵機の機能だけを停止させ、バージョンアップを終わらせたブラウンに向けて放り投げている。

 そしてブルースが五十機ほど回収した時だった。


 パリン!

 何かが弾けた。

 ブルースの頭の中で大量の歯車が回りだし、巨大な鉄の門が開かれていく。

 重厚な門が開くと中から何かが姿を現した。

 それは各部分の鎧のように見えるが、まるで半透明な人間が装備しているように見えた。

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