186.6vs6

「姉さんは支援をお願い!」


「わかったわブルー」


 クロスボーダー教の四人とリック博士、そしてキャロラインと呼ばれる三つのバンデージマンを組み合わせたという巨大な改造人間。

 てっきり個々が勝手に暴れるのかと思いきや、しっかり連携を取って戦っていた。


「くかかかか! 腕が増えるとこんなにも便利に使えるのだな!」


 リック博士は左肩だけでなく右肩、背中からは茶色い二本のモンスターの長い腕を生やし計六本の腕から別々の魔法を連発している。

 魔法使いウィザードが一度に使える魔法は基本的に一つのみ、上級者が二種類の魔法を使う場合もあるが低ランク魔法の上、かなりの魔力を消耗する。


 それが上級魔法を同時に六つなので、上級魔法使いウィザードが六人居るのと変わりない。

 いや上級魔法は連発出来ないので、リック博士一人で一国の軍に匹敵するだろう。


「ちょっと……全部受け止めないと地形が変わる威力じゃない! 国を滅ぼす気⁉」


 指輪:クーターバハの箱を使い少しずれた空間へと魔法を逃がしているが、その威力と数に指輪がきしんでいる。


 チョイ悪オヤジのシャバズは腕こそ三本だが、数えきれないほどの投げナイフを操り、まるで黒い巨大な二匹のヘビが空中を自在に飛び回っている様だ。


「はわわっ⁉ ちょっと! あのナイフのヘビって石の柱を粉々にしてるんだけど!!」


 ローザは一匹目のナイフ蛇をかわしたが、ナイフ蛇はローザの背後にあった崩れかけの石の柱を粉砕して通り過ぎていった。


 おかっぱ頭の女性アリアナは人間サイズの腕が十本以上あり、更に肉で出来たパイプ四本が背中から上に向かって生え、一人で複数の楽器を演奏している。

 演奏の効果は味方の士気・能力向上、そしてブルース達への行動制限だ。


「くっ! 空を飛ぼうとしたらペガサスの翼が言う事を聞きませんわ!」


 空の高速移動を得意とするエメラルダだが、高速移動の要ともいえるペガサスにまで制限がかかり、エメラルダ達の手足さえも油断したらあらぬ方向へ曲がろうとする。


 小柄なヒゲ面のエンヴェアは腕だけではなく全身が骨ばったモンスター化しているが、理性はあるようで迷わずシアンに向けて右腕と一体化した巨大な斧を振るっている。


「ピー! 目は繊維じゃないけど気持ち悪いんだよ、ダヨ!」


 シアンはひたすらに逃げていた。

 反撃はしないのだろうか……涙目で逃げ回っている。


 騎士かぶれのブロンソンは腕は増えていないが足が長く太く強化されていた。

 足だけがモンスター化し鎧のような形になっており、顔もフルフェイスの騎士兜に変化していた。


「騎士になりたいのならば、騎士としての矜持きょうじを持つべきでしょう。そのような姿では無理でしょうが」


 シルバーはブロンソンの素早い踏み込みから繰り出される剣戟を右手のレーザーブレードで受け止め、兜に隠れた赤く光る眼を睨みつけた。


 ブルースはキャロラインの巨大な拳を黒いパワードスーツの腕をクロスさせて受け止めるが、予想以上の威力に少し押し返される。

 

「バンデージマン三人分の力……一体どんなスキルがあるんだ?」


 キャロラインに聞こえるように問いかけるのだが、すでに言葉を理解出来ないのか反応する事なく拳をひたすら打ち付けていく。

 パワードスーツの出力を上げたのか、思い拳の連打を受けても後退する事は無くなったが、そこでフォローが入る。


 一人演奏会のアリアナの曲が強くなったのだ。

 その音にブルースの腕はガードを緩められ、キャロラインの蹴りがブルースのアゴに命中する。

 ブルースの体が宙を舞うとすかさずナイフ蛇が何度も襲い掛かりボディーを削っていく。


「ああっブルー君! このっ、お前の相手は私でしょ!!」


 シャバズはナイフ蛇の片方を向かわせただけであり、もう片方のナイフ蛇はローザの相手をしていた。

 ローザ自身も斬っても破壊しても無くならないナイフ蛇に手を焼いている。

 ブルースの助けに入ろうとするが左からもう片方のナイフ蛇が向かってきたため、両腕にバーニングナックルの巨大な籠手こてを装備してガードする。


 だが巨大な籠手は表面が傷だらけになり、少しずつだが削られている。


「ウソ⁉ このナイフってこんなに硬いの⁉」


 バーニングナックルの籠手は千度以上の熱に耐え、上空から落下した際もクッションにしたが傷一つ付かなかった代物だ。

 それが少しずつでも削られている。


「へ、へへっ、俺のナイフはダイヤモンドと同等の強度があるんだぜェ」


 シャバズは苦しそうな表情でニヤケている。

 あの形態は体に負担がかかるのか、それともスキルを使うのが苦しいのだろうか。

 ナイフ蛇で削られる籠手だが、絶え間なくナイフ蛇が襲い掛かるため移動できないくなってしまった。


 そしてそれを見逃すリック博士ではなかった。


「動けないようだな。ではその足は必要あるまい!」


 リック博士の腕の一本がローザに向き、青白い光線が発せられた。


「ローザ! 避けなさい!」


 オレンジーナの悲鳴のような声が聞こえると、考えるよりも先に強引にナイフ蛇から脱出を試みる。

 だがそこに楽器の音が鳴り響き足がもつれて転びそうになる。


「うわっちゃ!? こ、こんな時に……あ」


 何とか転ぶのは防げたが、一瞬のスキは命とりだった。

 ローザの足に青い光線が命中すると足元から氷の花が咲いてローザを氷漬けにしようとする。

 必死に氷を砕いて全身が覆われるのを防いでいるが、氷の進行は予想以上に早くローザは肩まで氷漬けになってしまった。


 そしてそこにナイフ蛇が襲い掛かる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る