184.改造済み
チョイ悪オヤジのシャバズが投げたナイフを片手ではたき落としたブルース。
だが床に落ちたナイフは静かに動き出し、ブルースの後頭部に向かって飛んでいくではないか。
「ブルーお兄様!!」
エメラルダが大声を上げて手を伸ばす。
だがナイフはブルースの後頭部に命中してしまう。
「おんやぁ~? こいつぁ~驚いたな」
テーブルに足を乗せて椅子を後ろに傾げていたシャバズは、ブルースにではなく自分の背後に驚いていた。
シャバズの背後には右手の甲からレーザーブレードを出したシルバーが、弓を引いたようなポーズでシャバズの頭を狙っていた。
「マスターの命を狙う者は全て敵です。マスター、殺傷の許可を」
「ダメだよシルバー。この人達は僕達を傷つける気はないんだ。こんな遠回しな確認をして、一体何をしたいんですか?」
投げナイフが後頭部に命中したはずのブルースは、何事も無かった様に落ち着いている。
ナイフは……ブルースの髪の手前で止まっていた。
ドローンの子機が数機集まり防護壁となっていたのだ。
「いやいや、すまねぇな。一応最終確認をしとかなくちゃいけねーんだわ。あんたらが本当にボーダーレスを超えたボーダーレスなのか、な」
そう言ってシャバズはゆっくりと両手を上げる。
「そんでよぅ、このお嬢さんにいってくんねーかな? 俺に殺意は無いってな」
ブルースが左手を少し上げるとシルバーはレーザーブレードを消し、カツカツと音をたてて自分の席に戻る。
シャバズは腕を下すときに、冷や汗を誤魔化す様に顔をかく。
一呼吸おいて、リック博士が口を開く。
「気は済んだかねシャバズ。他の者達も理解しただろう? この者達は君達よりも上の存在なのだ。そして……ベラヤ=バイマーク連合議会が理解できない部類の人間だ」
リック博士が四人を見回すと、四人とも黙りこくっていた。
それもそのはずで、先ほどのシルバーの動きを全く感知できなかったのだ。
気が付いたらシャバズの背後で武器を構えていた。
そんな者を相手にして反論できるはずがない。
「いいのではないか? 実力はわかったからな」
「そうじゃの、問題はなかろう」
「じゃあじゃあじゃあ、それでいいよ」
騎士かぶれのブロンソン、ヒゲ面で背の低いエンヴェア、背の高いおかっぱ頭のアリアナが同意する。
自分達より上で連合議会が理解できない人間を、どうするつもりなのだろうか。
「明日の議会でもう一度説得をしてみよう。それでダメならばそれまでだ」
そう言ってリック博士が席を立つと、他の四人も席を立った。
翌日。
朝から屋根もない凍りそうな丸い芝生の広場で、周囲を囲む石の階段ベンチに座った議員たちが白熱していた。
といっても言っている事は昨日と同じだ。
ブルース達は中央の芝生で立たされ、三百六十度から酷い言葉を投げられている。
「ねぇブルー君、いつまで茶番に付き合うの?」
「リック博士が説得するって言ってたから、それまでは我慢しようかなって」
「なんか悲しくなってくるんだよ、ダヨ」
「しかしマスター、命令なので我慢しますが、チップが熱暴走しそうです」
「お兄様がそういうのなら我慢しますわ」
「……リック博士が失敗したら、その時点で
ブルースは冷静を装っているが、他の五人同様にそろそろ限界が近かった。
五人の爆発はリック博士にかかっている。
「うむうむ、諸君! 言いたい事は理解できるのだが、前にも説明した通りこの六人はボーダーレスを超えたボーダーレスだ。我ら五人でも
「抑えろ! コレは俺の物なんだぞ!」
「お前達もボーダーレスを超えたボーダーレスなのだろ? ならば大丈夫だ」
「所詮は小僧と小娘。お前達で抑えて見せろ」
どうやら説得は失敗したようだ。
その後もリック博士は発言をするのだが、それを聞く耳は議員には無い。
「あ、これは失敗ね!」
「失敗だね」
「失敗なんだな、ダナ」
「では命令は撤回ですか?」
「失敗ですもの、撤回ですわ」
「撤回じゃなくてもやるわよ? 私は」
六人が攻撃態勢を取ろうとしたその時! リック博士が大声を上げた。
「貴様等! ワシの話を聞かんかー!!」
立ち上がって大声を上げたかと思うと、懐から大きめの瓶を取り出した。
それを石の階段ベンチに投げつけ割ると、中の液体は一気に蒸発して周囲に広がった。
議員たちは驚いて動きを止めるが、瓶の近くにいた議員たちが唸り声を上げ、苦しみ始める。
まさか毒薬か? と他の議員たちは逃げようとするのだが、すでに蒸発した薬品は議会場全てに広がっていた。
「ぐああ! なんだ、なんだこれは!!」
一人の議員の右腕がズルリと地面に落ちた。
いや、落ちたのではなく伸びたのだ。
他の議員たちも悲鳴と共に体が作り変えられ、手足が長く伸び、服を破って胴体が細長く作り変えられていく。
「な、なに? 何が起きてるの⁉」
ローザが口を押えて驚いているが、ブルース達やリック博士達五人には異変が起きていない。
議員たちにだけ異変が起きている。
その場にいた議員たちは全て変貌を遂げ、三メートル近くまで身長が細長く、目は蜘蛛の巣が張ったような繊維状になり、皮膚も土色になっていた。
「あれは、前に戦った繊維目の大型?」
ブルースは妙に落ち着いて観察している。
「ピー! 気持ち悪いんだよ、ダヨー!」
シアンはやはり苦手なようだ。
「議員はすでに改造済み、という訳ね」
オレンジーナはいつでも来いと言わんばかりに睨みつける。
「ではこの国はすでに、リック博士の手に落ちていたのですわね」
エメラルダは多種多様の騎乗動物を召喚し、議会場を取り囲む。
「意識を残したまま後悔させたかったのですが、逆に哀れになってきますね」
シルバーは蔑むように目を細め、両手の甲からレーザーブレードを出す。
「じゃあ、いっくよー! ……あれ?」
ローザが剣を取り出した所で動きを止めた。
なんとリック博士達が大型の繊維目達を攻撃していたのだ。
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