174.人に使ったら

 地下の沈む船の調査を終え、ブルースとシアンはアルマルカ帝国の帝都に戻って来た。

 エリヤス大公の屋敷に戻ってくると、何やら屋敷は賑やかだった。


「あ! ブルースとシアンなのだ! お帰りなのだ!」


 正面玄関をくぐり執事やメイドが頭を下げる中を歩いていると、グラオが階段を降りて駆け寄って来た。

 十歳の見た目通りの反応を見るに、どうやら今はグラオが表に出ている様だ。

 

「ただいまグラオ。随分と屋敷が賑やかだけど何かあったの?」


 ブルース、シアンと順番に抱き付いたグラオは、二人の手を引いて二階のバルコニーに連れて行く。


「みんなに紹介するのだ! ズー・バウスを倒した英雄のブルースとシアンなのだ!」


 バルコニーには大勢の貴族令嬢がお茶会? をしていた。

 三十人ほどいるのだが、どこかで見た面々だ。


「グラオ様! この子はキュアキュアに相応しくありませんか!?」


兎人コニードゥですわね、つまり……マスコット枠ですわね!」


 五歳から十五歳ほどの令嬢たちがシアンを囲みキャーキャー喜んでいる。

 どうやらグラオのもう一つの人格、グレイが結成したプリティ戦隊・キュアキュアのメンバーのようだ。


 ブルースとシアンはしばらくお茶に付き合わおもちゃにされ、昼過ぎにはお茶会が終わった。

 やっと一息つけると思ったのもつかの間、グラオの人格が入れ替わっていた。


「お主たち、ちょと部屋まで来てくれ」


 グレイに案内されてグレイグラオの自室に入ると、グラオはソファーに座って足を組む。


「まったくこの忙しい時にどこをほっつき歩いていたのだ。こっちは大変だったのだぞ?」


「え? ご、ごめん、やり残した事があったから」


 グレイの正面のソファーにブルースとシアンが座ると、メイド達は何も言われなくても部屋を出て行った。


「まあいい。それで、この国の事はどこまで理解している」


「えっと、ギーゼラ皇后に呼ばれた時からの事?」


「そうだ」


「貴族どころかローザ達まで言いくるめられて、変な方向に話が進んだ所までは知ってるよ」


「ふむ、では戦争を仕掛けようとしている事は知らぬのだな?」


「せ、戦争⁉ この国がどこに攻めようっていうのさ!」


 グレイが簡単に説明すると、想像以上に悪い状況に驚愕する。

 二人は少し考え込んだ後、シアンが先に口を開いた。


「ギーゼラ皇后は国での立場を上げたいだけじゃなかったんだな、ダナ」


「その様だ。私はてっきり他の聖女セイントを排斥している理由は、スキルを偽造しているからだと思っていたが、どうやら違ったらしい」


聖女セイントは国の重要人物だから、敵対すると面倒なんだね」


「ああ、ギーゼラに異を唱えられたら、自分の思い通りに出来ないからだろうな」


「でもオレンジーナは義理姉妹になっちゃったんだよ、ダヨ?」


「どこかの段階で手駒にしたのだろうな。聖女セイントオレンジーナの利用価値は、そんじょそこらの聖女セイントとは比較にならんからな」


「じゃあまずは姉さん達を元通りにしないとね」


「なにかアテがあるのか」


「何とかなると思うよ」


 話が終わるとブルース達は城へと向かった。

 目的はもちろんギーゼラ皇后によって変えられた、ローザ達の考えを元に戻すためだ。

 簡単にはいかないだろうが、それよりも他から邪魔が入る方が面倒だ。


 だがその考えは杞憂きゆうに終わった。

 城ではローザ達が待ち構えていたのだ。


「やっと会えたねブルー君!」


「待っていましたわお兄様」


「ブルー? 今日は私達に付き合ってもらうわよ」


「マスター、お久しぶりです」


 どうやらブルースが帝都に戻ってきたことが伝わっていた様で、城に向かっていると聞いて城の前で待ち構えていたようだ。

 本人達がブルースに会いたがっているのだから、誰も邪魔などしなかった。


 早速ローザの部屋に入ると丸テーブルを囲んで座り、ローザ達四人はブルースを説得しにかかる。

 だがブルースはそんな意見に耳を貸さない上に反論をする。

 途中から四人はイラついているのがわかるが、なんとかブルースとシアンを味方にしようと必死だ。


 一時間以上話し合っただろうか、もう無理だと思ったシアンがブルースに小声で話しかける。


「ブルース、私の発現者エクスプレッサースキルで戻に戻すんだよ、ダヨ」


「少し待って、それだとギーゼラ皇后との意見と衝突して、どうなるか分からない」


 シアンのスキル発現者エクスプレッサーは口に出した事を現実のものとするスキルだ。

 だが相反あいはんする命令をしたらどうなるかわからない。

 本当は人に使いたくなかったようだが、ブルースはアサルトライフルを取り出した。


「マスター、私はマスターの命令に反していますか? より良い提案をしているつもりなのですが」


 ブルースが銃を取り出したので、てっきり自分が撃たれると思ったのだろう。

 もちろんブルースにそんな気はないので笑顔で否定し銃を構える。


「大丈夫だよシルバー。ただみんな……僕を信じてくれるかい?」


「私はブルー君を信じてるよ!!」


「私もですわ」


「ブルーが私達に悪いことをするはずないものね」


「私はマスターの命令に従うだけです」


 四人の理解を得てブルースは四人の中間、誰もいない場所を狙ってトリガーを引く。

 小さな渦巻のような弾が四発同時に発射され、それぞれが四人に向けて弧を描いて命中する。


 目と口を大きく開けてのけ反り、プツリと糸が切れたようにテーブルに突っ伏す四人。

 約十分後に四人が目を覚ましたのは、ローザのベッドの上でだった。


「あれ……私なんで眠って……! あれ⁉ なんでギーゼラ皇后の意見に賛同してんの私⁉」


「私がアルマルカ帝国の為に戦争を……? なぜそんな考えに至ったのか理解できませんわ!」


「なんで私があの女の妹なのよ! ふざけないでよー!」


「システム正常。しかし体内時計に不具合が検知されました」


 四人が目を覚ますと同時に、どうしてギーゼラ皇后の意見に賛同したのか理解できない様だ。

 確かに言いくるめられたとはいえ納得してしまったので、逆にそこに納得がいかないのだ。


「良かった……みんな元の意見に戻ったんだね」


 四人は口々に謝罪を言いながらブルースとシアンに頭を下げる。

 どうやら今までの記憶を持ったままで時間が巻き戻ったようだ。


「えっと、確か戦争が間近何だっけ」


「そうだった! 貴族たちが揃う前に止めないと!」


 ローザが思い出したように手を叩く。

 しかし今は話が進んでいない理由を聞き、首を傾げながらも次の作戦に入る。


「あの時の貴族が全員揃うのっていつ?」

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