167.シーパワーの国

 ブルースとシアンが宇宙に転送された後、アルマルカ帝国では各国に向けて攻め込むべく、極秘の会議が繰り返されていた。

 アルマルカ帝国の不安要素と言えば他国との間に横たわり、未確認のモンスターが跋扈ばっこする広大な森と断崖絶壁の山脈。


 それを取り除くためには外に出る事が一番手っ取り早いのだ。

 今まではどれだけ陸戦能力があっても狭い通路のため攻める事は難しかったが、アルマルカ帝国で一番の戦力は海軍だ。

 陸路は大自然により塞がれているが、海は開かれている。


 なので陸は最低限の守りを残し、海軍に注力して隣国を攻めようというのだ。


「海軍大将アルマン、現在の戦力でどこまで攻め込むことが可能か」


 大きな会議室で、ギーゼラ皇后はキラキラの装飾を施されたイスに座ったまま、大きな長方形の石製テーブルを叩く。

 すると左前方に座っていた白いあご髭、四十歳前後の筋肉質の男性が立ち上がる。


「海を通してですと、西のサザランドと東のティリーンなら問題なく」


「他には?」


「サザランドは横に長い国なので、北にあるレーベングラッハを取ってからでないとそれ以上は進めません。東のティリーンならばもう一つ向こうまでは問題ないかと」


 テーブルに置かれた地図を細い棒で指しながら、補足説明をする。


「ですが東に行った場合、食料が不安になります。ティリーンは食料を輸入に頼る所が大きく、占領しても兵士をやしなえません」


 そんな会話を聞きながら、ローザ、エメラルダ、オレンジーナ、シルバーの四人は将軍達にの横に並んで座りながら、ヒソヒソ話をしていた。


「ねぇねぇ、私達だったら国の一つや二つ簡単だよね?」


「それを言ってはいけませんわ。私達がやるのではなく、国がやる事に意味があるんですわ」


「そうよローザ。国が革新的な事をしようとするときに、私達が出しゃばってはダメ。あくまでもフォローに徹するのよ」


「はぁ~いジーナさん。でもさ、なんなら人型機動兵器を使って敵兵の戦意を喪失させるのは?」


「ローザ、アレはマスターのお力です。マスターが賛同していない以上、使うべきではないでしょう」


「むぅ~。ブルー君も早く理解してくれればいいのに」


 随分とのんきな会話をしているが会議はどんどん進み、まずは西のサザランドとレーベングラッハを攻める事が決まった。

 そちらは食料の自給率が高いため、まずはそちらを安定させるのだろう。


「それでは艦隊の出撃準備を整えよ! 人員や艦隊編成についてはアルマン大将に一任する!」


 ギーゼラ皇后が締めくくると、全員が起立して右のこぶしを左胸に当てる。

 会議室から出た後、ローザ達は城の中に用意された自室へと向かう。

 その後でローザの部屋に集まり話をを始めた。


「ブルー君? 聞こえる? ねえブルー君ってば」


「ダメみたいね」


「うん。全然通信がつながらない」


 イヤリング型の通信機を使いブルースと話をしようとするが、そもそもブラウンとも通信が出来ない状態だ。

 シルバーも自身の通信機能を使ってみたが、やはりブルースともブラウンとも繋がらなかった。


「困りましたわね。お兄様と話が出来ないのでは説得のしようがありませんわ」


「マスターとブラウンには何か考えがあるのでしょう。しかし通信を封鎖するとはどういう事でしょうか」


 イヤリング型通信機はブラウンを経由して会話するので、ブラウンの力無しではただのイヤリングだ。

 なのでこの場にいる四人の間でも通信は出来ない。


「ブラウンがマスターを緊急転送したという事は、ひょっとして私達がマスターに対して危害を加えると思われたのでしょうか」


「ええっ!? 私達がブルー君に何かするはずないじゃない!」


「そうですわね。ですが私達以外でしたら危害を加えられますわ」


「私たち以外? あの場には大臣や貴族達がいたけれど、そっちが危害を加えるとでも? そんな事をブルーにしようものなら私達が許さないわ」


「そもそもマスターに危害を加えられる者など、この世界には存在しないのでは?」


 シルバーの言葉に全員が頷く。

 確かにブルースに危害を加える事は実質不可能といっていいだろう。

 物理的に、だが。


 これは最近のブルースを見ている四人だから余計に勘違いしているが、ブルースの精神は非常にもろい。

 強くあろう、くじけずに頑張ろうと努力しているが、根底には家族にないがしろにされ、学園では魔法の標的にしかされていた。


 しかも最終的には両親に殺されそうになったのだ。

 最近はあまり気にしていないが、その精神は非常にもろい。

 それに気が付いているのは現段階でブラウンだけだった。

 

「なんにせよ、一度ブルーに会って話をしないといけないわね」


 オレンジーナの言葉で四人の集まりは一旦終わるが、その頃ブルースは地下の船に入ろうとしていた。

 以前オレンジーナを抜かした五人で入り、狭い船内でゴースト相手に撤退した場所だ。


『艦長、中継器の状態は良好です。これで船内や艦長、シアンの様子をモニターできます』


 地下の入り口と通路に中継器を置き、不測の事態にいつでも対応できるようになった。

 今のところ全員を説得できる手立てが無いため、まずは出来る事を終わらせようというのだろう。


「良かった。前も同じようにしたらよかったね」


『いえ、前回はモニターしていても逃げる事しか出来なかったでしょう』


「そうなんだよ、ブルースは強くなったから来た意味があるんだよ、ダヨ!」


「ありがとうシアン。じゃあまずは甲板から行きますか!」

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