116.ファランクスシステム
混乱するブルースをよそに、人型機動兵器ハンマーは大きな変化を遂げていた。
丸みを帯びていたボディーは流線形になり、両肩には巨大なレーザーカノン、巨大なブースター内臓バックパックにはミサイルが満載され、右手には縦に二門並んだレールガン、左手には丸いレーザーシールドが持たれていた。
ブルースは不思議な感覚を味わっていた。
宇宙に丸裸でいるような感覚だ。
しかし腕を曲げれば自分以外の腕が動いている感覚があり、まるで背中に目があるように全方位の様子が手に取るようにわかる。
「なに……これ。僕の体が僕じゃないみたいだ」
『ファランクスシステム、正常に稼働中です。艦長の体はリファインされたハンマーの一部となり、五感が共有されます』
「え、どういう事⁉ 僕が僕じゃなくなったの⁉ 僕の体はどうなったの!」
『ハンマー改に搭乗した場合のみ感覚が共有されますので、解除時には生身の体に戻ります』
「そ、そうなんだ」
そう言われても不安はぬぐい切れないようだ。
しかし今の状態が面白いのか、試運転がてらあちこちを飛び回る。
その試運転によって巡洋艦五隻、駆逐艦八隻が一瞬で破壊された。
「凄いパワーだ! 両肩のレーザーカノン一発で船が沈んでいく!」
駆逐艦は五百メートル級だが、巡洋艦は二千メートル級だ。
もちろんバリアフィールドを張っているのだが、バリアを貫通して破壊する。
右手のツインレールガンは縦二門が交互に発射するためマシンガンの様に連射ができ、小型ライフルなので取り回しもいい。
楽しくなったブルースは暴れまくり、そろそろ戦艦に迫ろうという時にローザに止められた。
「ブルー君? 出来れば私に譲ってほしいな~って」
ローザは殺された仕返しをしたいので、可能ならば自分で始末をつけたいようだ。
ふと我に返ったブルースは急停止し、ローザに向き直る。
「ごめん、楽しくなって調子に乗っちゃった。僕はしばらく観戦してるね」
「ありがと! じゃあ行っくよ~!」
ローザが右手のレーザーハルバードを脇に構えると、左手には光り輝く弓が持たれていた。
片手で弓をどうするのかと思ったら、なんとハルバードを矢のようにつがえた。
「≪トールハンマー≫!」
レーザーハルバードが発射されると、ハルバードは巨大な雷となり誘導するようにジグザグに進み、進路上の敵全てを打ち砕く。
雷は何キロも進むと黒い戦艦に命中、遂に主戦力の一角に傷を負わせたのだ。
喜ぶローザとブルース、シアン。
敵は強力な三人に釘付けとなり、シルバーは攪乱の必要が無くなっていた。
シルバーは神妙な顔で三人を見ている。
「
『
「私の事はシルバーと呼んでください。確かに素晴らしいマシンです。しかし私はマスターを守るという使命があり、そのためにはより多くの力が必要なのです」
『では私の事はAI個体名、ブラウンと。火力という点ならば、艦長やローザ様の火力が異常なのです。シアン様の様に身を守る力が必要ですか?』
「違いますブラウン。私はマスター以上の能力が欲しいのです」
『残念ながらそれは叶いません。武装した艦長の力は敵部隊の壊滅など
「しかしそれでは私の存在意義がありません」
『生身の艦長の護衛ではダメなのですか?』
「常にマスターを護るには、力が必要なのです」
『では提案します。機械であるあなたを強化する事は簡単です。ですがその為には見た目の変更が必要です。今のシルバーとは似ても似つかなくなりますが、よろしいですか?』
「それは拒否します。この姿でなければ意味がありません」
『なぜですか? あなたは艦長を護るための力が必要なのでしょう?』
「私のこの姿をマスターは美しいと言ってくれました。この姿で仕えることが必要なのです」
『そうですか。では火力の強化は不可能です』
「お願いしますブラウン。私はマスターの側を離れたくないのです」
『提案二つ目。見た目が変わらず火力も上がりませんが、処理速度を上げる事は可能です。人型機動兵器に搭乗中は並列処理で四.二五倍、スタンドアローンでは一.六倍となり、直接的な火力ではなく、ドローンを使った早期警戒が可能となります』
直接では無理でも、間接的には大きなパワーアップになる。
果たしてシルバーはそれで納得するだろうか。
「わかりました。ドローンを広範囲に数多く展開出来れば、マスターのお役に立てるでしょう。お願いします」
全く迷いがなかった。
どのような形でもいいから、ブルースの役に立ちたいようだ。
今から
アームはシルバーの頭に取り付くと金属音を上げて改造を始めた。
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