114.丸見えの敵、見えてない敵
「ワープアウトまであと五秒、四、三、二、一、ワープアウト」
艦隊が通常空間に戻ると、七十隻を超える宇宙船が艦列を整える。
戦艦と空母を中心に巡洋艦が周りを囲み、さらにその外を駆逐艦が並ぶ。
まだアリアルファ星系の外にいるようで、恒星はまだ小さい。
「目標は第四惑星のようです。一応調べましたが、調査船の反応はどこにもありませんでした」
赤い戦艦のブリッジで、青年副官が艦長に伝えた。
艦長は特に返事はせず、拡大された第四惑星を見ている。
「同じだな。我らの母星と同じく青い星だ。いや、環境が破壊され砂漠の増えた我が母星よりも、ずっとずっと美しい星だ」
少し寂しそうな表情をするが、咳払いをして立ち上がり右手を前に突き出す。
「これより第四惑星を目指す。全艦第一戦闘速度にて前進せよ!」
艦長がいる場所はブリッジの最上段、下に三つの段があり楕円形に広がっている。
一番下の段は長さ五十メートルはあるだろうか、一番遠くにいるクルーの姿がとても小さい。
命令が各部署に届けられ、ブリッジは慌ただしくなる。
「探査船が破壊された跡すら見つかりません。どこか別の場所へと移動したのでしょうか」
「さてな。完膚なきまでに破壊されたのかもしれんぞ?」
「はっはっはっは。そんな事が出来るのは、我々よりも技術レベルが上の文明だけです。ありえませんよ」
「そうだな」
どうやら青年副官は、探査船は何等かの理由により連絡が出来なくなっただけ、と考えているようだ。
しかし艦長は別の理由を考えていた。
『移動したのなら途中までのログが残っているはずだ、しかし信号は突然消えた……やはり何者かに破壊されたのではないか?』と。
艦隊は慎重に進み、三日かけて第四惑星へと到着する。
青い星の周囲を警戒するが何もなく、人工衛星が一つも浮いていない。
その風景を見て艦長は「思い過ごしならいいが」と更に警戒を強める。
宇宙から見る第四惑星は平和とはいえず、常にあちこちで争いが起きていた。
事前情報でこの星は戦争だらけだが、科学兵器が無いため環境への影響があまりない、とは聞いていた。
だがその戦争も原始的な物で、魔法があるらしいがごく一部の強者以外は気にする必要はない、といったものだった。
ならばどうして調査船が消えたのか、たった一つの疑問だけで全てが疑わしく見えてしまう艦長。
「聞いていた通りの星ですね。やはり調査船は操作ミスか、船に故障でも発生したんでしょう」
副官はのんきだが、艦長は不安で仕方がない。
なので次にとる行動は、副官には理解できない物だった。
「警戒レベルを最大にしろ。どんな些細な事でもいいから報告を」
ブルース達は巨大なワニを退治した報酬で、国外へと旅行に出ていた。
以前から他国を見て回りたいと言っていたブルースの要望を聞き、ローザもシアンも賛成した形だ。
「おおっ! ブルー君ブルー君! あれあれ! あそこに綺麗なお花畑があるよ!」
「ブルースブルース! あそこで変な踊りをしてるんだな、ダナ!」
どうやら今いる街では祭りの真っ最中らしく、街の中は露店や人であふれ、まっすぐ歩くのも大変なほどだ。
「アレは何だろう、パンに何かを挟んであるけど。アレは⁉ 細長いものが沢山入ってるぞ!?」
みんな見る物が違っていた。
ちなみにシルバーは無言でブルースの後ろを歩いている。
そんなブルースの耳には小さなイヤホンがかかっており、何かあれば通信が入るようになっている。
そして早速連絡が入った。
『小規模な船団がワープアウトしてきました。総数は七十三隻、危険レベルは二」
『敵対勢力でしょうか?』
『船体の構造は以前破壊した宇宙船と似ています』
『マスター、恐らく消息を絶った宇宙船の捜索に来たと思われます。であれば我々の敵対勢力となります』
「敵対勢力か……それなら僕たちが相手をしなきゃいけないけど、ローザの事もあるから、出来れば密かに対処したいな」
「ブルー君? 何を密かに対処するの?」
ブルースの顔を覗き込み、独り言を言うブルースを不思議そうな顔で見るローザ。
そう、通信を聞いていたから思わず返事をしてしまったが、大きなひとりごとを言っていたのだ。
「マスター、密かに対処する事は不可能となりました」
「うん……僕……恥ずかしい……」
幸い周りがお祭りで騒がしいので、他の人からは変な目では見られていない。
しかし隠したかった対象のローザにバレてしまった。
「えっとねローザ、ローザを捕まえた連中の仲間が来たんだ。それの対応をどうしようかなって話をしててんだ」
「え! あいつ等の仲間が来たの⁉ ふ……ふふふふふ、今度は負けないわ!」
ローザはヤル気だ!
しかし相手は宇宙にいるので、ローザが戦おうとしても無理だ。
『人型機動兵器の調整を済ませてあります。皆さんの体型や能力に対応可能です』
そんな事を
思わずシルバーと目を合わせるが、その言葉通りの意味だった。
「い~~~~ーーーーやっほ~い! 何コレ何コレ! 私の思い通りに動くよ!」
「わわわわ、考えた通りに動くんだな、ダナ!」
ローザは黒く丸みを帯びた大型ハンマーに乗り、シアンは機動性重視の少し小さいヴェイロンVXに乗っている。
ローザは自分の体の動きがそのままマシンの動きになるダイレクトコントロールで、シアンは椅子に座り、両手の
初めて宇宙で操縦をしているのに、全く動きに戸惑いがない。
ブルースとシルバーも人型機動兵器に乗っており、ブルースはハンマー、シルバーはヴェイロンVXだ。
『そろそろ敵の索敵圏内に入ります』
丸く隊列を組んでいるが、その船団にたった四機で挑もうとしていた。
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