99.ローザ

 ローザが胸を押さえて倒れ、息苦しそうに顔をゆがめる。

 指が胸に食い込み血が流れそうだが、そうなる前にローザは息をしなくなった。


「は、はーっはっはっは! ザマァみろ! 俺達に歯向かうからこうなるんだ原住民め!」


 ヤニクがローザの様子を見ながら接近し、作業ローダーの足で軽く蹴飛ばす。

 反応が無いのを見て嬉しくなったのか、そのままローザを蹴り続けた。


「ビビらせやがってクッソババア! お前らみたいな未発達の原始人が俺達のような高度な人類に勝てるはずがないだろうがよ!」


 力いっぱい蹴飛ばすとローザは隔壁に衝突する。

 隔壁を見てヤニクは本来の目的を思い出す。


「おっと、ゴミは捨てなきゃな。外部ハッチは……三ブロック先か、隔壁を開けてっと、ん?」


 隔壁を開けるとブルースとシルバーがいた。

 ブルース達も突然隔壁が開いて驚いているのだが……倒れているローザを見て考えるより先に拳が出た。


「ぐぴゃ!」


 作業ローダーは身を守る部分が少ないが、偶然にも胸のパイプに命中して通路を転がる。

 

『ヤニク! そいつらは侵入者だ、外部ハッチを解放して追い出せ!』


「し、侵入者!? ふざけやがって、とっとと出て行きやがれ!」


 作業ローダーで壁を叩くと三ブロック先の外部ハッチが解放され、空気が吸い込まれるようにハッチから流れ出る。

 ヤニクのローダーは背中からワイヤーが飛び出し、壁にぶら下がるようにして揺れているのだが、ブルース達は外に放り出されてしまった。


「しまった! ローザが!」


 宇宙に放り出された三人だが、かなりバラバラに飛び出してしまう。

 ブルースは必死に手を伸ばすがローザとの距離は離れていく。

 ジェットエンジンを動かそうにも酸素がなく、虚しく空回りをする。


「こうなったら……」


 ブルースは拳を自分の背中に当てるとミサイルを発射、爆発の勢いでローザの方へと弾かれた。


「マスター! なんて無茶な事を!!」


 少し軸がズレていたのかもう一度ミサイルを発射し、何とかローザの手を掴むことに成功する。

 ジェットエンジンは完全に破壊され、背中の装甲がめくれて火花が散っている。


「ローザ! ローザ目を覚まして!」


 レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスを一機呼び出してローザの上半身に武骨な鎧として装着させる。

 何度も呼びかけ、体を揺するが全く反応がない。


「マスター、船内でも言いましたがローザの生命反応は消えています」


「うるさい黙ってろよ! ローザが僕を置いて行くはずがないんだ!!」


 だが反応があるはずはなく、ブルースは泣きながらローザの亡骸を抱きしめる事しか出来なかった。


「ブルーお兄様? どうなさいましたの?」


 宇宙船から離れたエメラルダとジズが、爆発を見て慌てて近づいてきたようだ。

 ジズが離れたことで、宇宙船は急いでその場を離れていく。


「お兄様?」


 答えないブルースに替わり、シルバーがジズにつかまり返事をする。


「エメラルダ、ローザが死亡してしまいました」


「……え!? ちょ、ちょっと何をおっしゃってますの!?」


 しかし小刻みに震えるブルースと、全く動かないローザを見てエメラルダは信じざるを得なくなる。


「は! そうですわ、ジーナお姉様にお願いしたら蘇生できるのではなくて?」


 聞こえていないのか、ブルースは動かない。

 エメラルダは無理やりブルースとローザをジズに乗せ、地上へと急いだ。


 地上ではまたもや流れ星が観測されたが、流れ星は王都に直撃する直前に消えてなくなった。


「お姉様! ジーナお姉様!」


 家に戻るとエメラルダがオレンジーナを呼ぶ。

 オレンジーナとシアンが急いで外に出ると、そこにはブルースに抱きかかえられ、動かないローザがいた。


「姉さんお願いだ、ローザを助けて!」


 事情を聴くもブルースは話にならず、エメラルダとシルバーが概要を説明する。


「わかったわ、すぐに蘇生しましょう!」


 オレンジーナの部屋のベッドにローザを寝かせ、オレンジーナは詠唱を開始する。

 この部屋は簡単な聖域になっているようで、成功率や効能が上がるようだ。


「念じよ! その魂のありかはどこなのか!!」


 オレンジーナの右手がローザの顔に掲げられると、手からは白や赤など様々な色が発せられる。

 数秒後に光が収まると儀式が終わったのか、オレンジーナは息をのむ。


「どうして……どうして失敗したの!? もう一度!」


 二回目の儀式を開始するがローザは動かない。

 その後何度も儀式を繰り返すも、ローザが生き返る事は無かった。


「ね、姉さん? どうしたの? 一体どうなってるの?」


「お姉様、落ち着いてくださいまし、これ以上はお姉様の体が……」


 オレンジーナは床にへたり込み、肩で息をしている。

 顔からは汗が大量に流れていた。


「わからない……一体どうして、どうして蘇生が出来ないの!」


「わわわ、オレンジーナ、落ち着くんだな、ダナ」


「グリムガルデ凍土!」


 オレンジンーナがそう叫ぶと、ローザは氷の棺に閉じ込められてしまった。


「姉さん! 一体何をしているの!?」


「これしかないのよ! 蘇生が出来ない以上、ローザの体を守るには聖遺物に頼るしかないの!」


「お姉様、説明をしてくださいまし」


「……このグリムガルデ凍土は、聖者クリスタリフが極寒の地で氷漬けになった場所。でも数百年後、聖者クリスタリフは無事生き返ったという逸話があるの。このグリムガルデ凍土の中では、時間の経過がとてもゆっくりになると言われているの」


「なるほど、それでオレンジーナはローザの時間をゆっくり流れるようにすることで、蘇生できない理由を探すつもりですね」


「そうよシルバー。ローザは必ず生き返らせる。でも今の私では……」


 なぜかローザには蘇生術の効果が無く、苦し紛れに時を封じたオレンジーナ。

 この先ローザを生き返らせる手段は見つかるのだろうか。

 

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