76.目的のもの
「博士、実験体四十三号が逃亡しました」
「ほっほぉ、遂に自我が戻ったか?」
石に囲まれた地下室で、右目を閉じた長い白髪の老人が感心している。
逃げたというのに随分と楽しそうだ。
「自我というか、ストレスが強すぎたのではないですか?」
「何を言っている、あんなに可愛がっていただろう」
拷問まがいの事をしていた気がするが、老人の中では可愛がっていたようだ。
それにしても老人だけでなく、助手のような男も全く慌てていない。
「追いますか?」
「無駄だ。本気で逃げる
忍者、バンデージマンは目にもとまらぬ速さで屋根の上を移動していた。
巨大な左腕をものともしないどころか、大きな左腕を利用してジャンプしている。
一体どこを目指して走っているのか、その足には全く迷いがない。
街中の屋根を走り抜け、遂に城壁付近にたどり着くと、今までよりさらに高くジャンプをし、そびえ立つ城壁の上に手をかけると勢いを殺さずに体を城壁の上へを持ち上げる。
城壁の上には哨戒の兵士が居るが、何故か兵士はバンデージマンに気が付かない。
バンデージマンは城壁から街の外を見ると、一点を見つめている。
そこは王都から少し離れた森。
むき出しの
「行きも帰りも超快適だね! シアンの虫よけ薬のお陰だね!」
「役に立てて嬉しいんだよ。虫をおびき寄せる事も出来るから、使ってみる? ミル?」
「そ、それは今はいいよ。昆虫系の討伐の時にお願いするね」
「分かったんだよ、ダヨ!」
捕獲したライジングイーグルを背中に担ぎ、三人は森を歩いていた。
今回も順調にいったので、依頼は日帰りとなる。
だが順調にいったのはここまでだった。
「ブルー君……何か来るよ」
「うん。これは……ああアレだ、バンデージマンだね」
「え? え? バンデージマンって、あの気持ち悪いやつ? ヤツ!?」
ブルースはパワードスーツを装着し、ローザは大剣を抜く。
シアンを護るように前に出るとソレは姿を現した。
獣が叫ぶような雄叫びを上げ、木の枝を猛スピードで移動して来る。
止まる事なくブルースの頭上から襲い掛かってきた。
「え!? なんだコイツ!」
以前とは違う姿にブルース達は戸惑う。
確保した左腕は巨大なモノに代わり、切り落とした右足は元に戻っている。
左腕でバンデージマンを受け止めてそのまま押し返すと、バンデージマンは空中で態勢を整えて木に足を着き、今度はローザ目がけて突っ込んでいく。
「左腕が大きいね! じゃあ……力比べしよっか!」
大剣を上段から振り下ろすとバンデージマンは左手で受け止める。
地面に叩きつけようと剣に力を入れるが、両足で着地しただけで剣はビクともしない。
「あ、あれぇ? 前とは比べ物にならないくらい強い……?」
徐々に剣は押し返され、遂には押し負けて後ろに吹き飛ばされる。
「きゃぁ! こ、こんのぉ!!」
「ブルース、今のうちにこれを渡しておくんだな、ダナ」
「これはなに?」
「バンデージマンの包帯を溶かす薬なんだよ、ダヨ」
バンデージマンの包帯には刃物が通用しない。
なので包帯が無くなると防御力を大幅に奪う事が出来る。
「それは凄いね!」
「それと、薬はもう飲んだのかな、カナ?」
「大丈夫、もう飲んだよ」
ブルースが親指を立てると、シアンも親指を上げてピョンピョンと飛んで距離を取る。
吹き飛ばされたローザに代わり今度はブルースが前に出る。
「ローザは今のうちに薬を飲んで。今度は僕が行くから」
ローザは片手を上げると急いで小瓶を出して薬を飲みだす。
「さあ今度は僕の番だ!」
右肩にガトリングガンを装備し、迷うことなく射撃を開始する。
しかしやはりバンデージマンの速度は速く、ブルースの旋回速度では追いつけない。
しかし今回は別の手段を持っていた。
ヘルメットのモニターには上空からの映像が流れており、バンデージマンの動きが丸見えの上、移動予測まで映し出されている。
それを見てあらかじめ
「やった! やっぱり
バンデージマンの胸と腹に一発ずつ当たり、流石に地面を転げ回っている。
しかしやはり包帯に防がれており致命傷にはならない。
胸を押さえて起き上がるが、悔しいのか痛いのか、左腕で地面を何度も叩きつける。
ひと際大きな雄たけびを上げると、いい獲物を見つけたと言わんばかりにシアンを睨みつける。
「ひっ!?」
小さな悲鳴を上げて頭を押さえて隠れるが、すでに場所がバレているので意味がない。
バンデージマンはシアン目がけて走り出すのだが、それを許すブルースとローザではない。
「「行かせない!!」」
ブルースは左腕を伸ばしてラリアットを、ローザは大剣をバットの様に振り回す。
しかしダメージは少なく動きを止めるのが精いっぱい……なのだが、包帯には大量の液体が付着していた。
ブルースが包帯を溶かす液体をかけたのだ。
頭や胸から煙を上げて包帯が溶けていき、バンデージマンは叫び声を上げながら逃げようとする。
しかしブルースが回り込む。
バンデージマンの体から包帯が無くなり、煙も風で流されていく。
カタンとかぶっていたヘルメットが落ちると、目の前に現れた姿は全身傷だらけ、心臓がむき出しで鼓動し、顔には皮膚がなく筋肉がむき出し、そして……脳みそが丸見えだった。
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