59.父と子の再会

 ブルースが生まれ故郷を訪れた時、すでに街は崩壊した後だった。

 魔動力機関装甲輸送車ファランクスで静かに進むが、荒れ果てた道のため車体が揺れる。


 家屋は倒壊し、あちこちで大型モンスターが倒れたままとなっている。

 さいわい……幸いでもないが、モンスターの下敷きになっているのは全て兵士のようだった。


「ブルーお兄様!」


 ペガサスに乗ったエメラルダがブルースを見つけたようで、空から魔動力機関装甲輸送車ファランクスの運転席側に舞い降りる。


「エメ、一体何があったの?」


「分かりません。お父様の話では、突然大量の大型モンスターが姿を現した、と」


「百や二百じゃないね」


「ええ、五百~六百はいますわ」


 それだけのモンスターに襲われれば、万端の準備が出来ていても相当の被害が予想される。

 しかも今回は前触れもない上に、兵士の数が少なくなったタイミングだった。


「みんなは無事なの?」


「それが……お父様はジーナ姉様が治療をしたので大丈夫ですが、その……シャル兄さんが見当たらないようですわ」


「シャル兄さんが?」


 エメラルダは引き続き空からの生存者捜索に戻り、ブルース達は屋敷へと向かう。

 そろそろ屋敷が見えてくるのだが、一応建物としては残っているが、中に入るのが危険だと一目でわかる程に破壊されていた。


「ブルー兄さん」


「ただいま、イオ」


 末弟のマスター鍛冶屋ブラックスミス・ヴァイオレンは瓦礫の撤去作業をしていた。

 周囲には沢山の兵士や住民がおり、兵士は生存者の救出や治療を、住民は泥だらけススだらけで呆然としている。


「ブルー兄さん、シャル兄さんが……シャル兄さんが!」


「落ち着いてイオ。シャル兄さんは凄くしぶといんだ、きっとどこかで生きてるよ」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスから降りてイオの頭を撫でる。

 紫の雑に切られた髪がクシャクシャになる。

 あまり背が大きくなく、前髪で目が隠れているので表情が分かりにくいが、間違いなく涙を流している。


「補給物資を持ってきたんだけど、どこに運べばいい?」


「グス……こっちだよ」


 屋敷の近くにテントが立ち並び、中で治療や休憩をしている。

 その中のいくつかが補給物資の保管場所だ。


「ここに置いておけば、兵士が中に運んでくれるよ」


 テント前に横付けし、後部ハッチを開けると兵士達は感嘆の声を上げる。

 鉄の馬車のウワサは聞いていても、実際に見るのは初めてなのだろう。


 兵士達は興味があるようで我先に荷物を運び出した。


「ブルー! 帰って来てたのね!」


「ジーナ姉さん、ただいま……とは言えないけどね」


「っ、でも、心配してくれたんでしょ?」


「まぁ……ね」


「それなら――」


「なぜお前がここにいる」


 オレンジーナの背後から、ひと際大きな男が姿を現す。

 ブラックリン・フォン・ワイズマン。

 ブルース達の父親だ。


 長い黒髪を後ろで纏め、鋭い目つき、精鍛な顔つき、そして何者をも恐れぬ態度。

 いるだけで威圧感を感じる人物だ。


「二度と帰って来るなといったはずだが」


「……大丈夫です、すぐに出て行きます。補給物資を持ってきただけですから」


「シャルトルゼを倒したからと、調子に乗っているのではないか?」


「そ、そんな事はありません!」


「ならば用事が済んだら早々に立ち去れ」


 オレンジーナの治療で体は元気だが、自分の息子が行方不明のうえ、領地がこんな状態なのだから、精神的には相当参っているはずだ。

 だがそんな事は微塵も感じさせない。


「お父様、ブルースはお父様たちを心配して来てくれました。それを追い返すなど人として、貴族としてどうお考えですか?」


「捨てたものはウチとは関係がない」


「お父様!」


「姉さんいいよ。僕が来たのが悪いんだから」


「でもブルー!」


「搬入には時間がかかるみたいだから、僕も他で手伝いをしてくるよ」


 ブルースに続いてローザとシアンも付いて行くが、その表情は複雑そうだ。


「ねぇブルー君、本当に良いの?」


「お父さんでも酷すぎるんだな、ダナ!」


「僕は本当に役立たずだからね、長居しても出来る事なんて無いよ」


「ブルー君は役立たずなんかじゃないよ!」


「ブルースはいい人! 私が好きなんだから間違いない、ナイ!」


「ありがとう二人とも。さ、今は手伝いをしよう」


 そんな様子を遠くの壁の陰から見ている者が居た。

 長兄のクリムゾナだ。


「ブルース……知らない力を使う怪しい弟め」


 他にモンスターが出て来ないか警戒しているようだ。


「俺はお前を認めないからな……しかし今回の襲撃、まさかジジーどもじゃないだろうな」


 立ち止まって考えているが、考えがまとまらないのか頭を掻きむしって頬を叩く。


 「今は情報収集だ。しっぽを掴まない事には始まらん」

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