49.上半身の行方
ゆっくりとしか移動しないと思わせておいて、射程距離に入ったら一気に間合いを詰められてしまった。
直径二十メートルもあり間合いが広くなっていた事も原因だろう。
「ははっははは!
どうやらシャルトルゼ自身も
飲み込まれたら出て来れないので当然かもしれない。
知らないからこそ恐ろしさを知っており、先ほどからの自信につながっているのだろう。
「ブルー! ブルー! 何を考えているのシャル!
「お姉様、あの魔法は一体何ですの?」
選手控室で見ていたオレンジーナが悲鳴を上げる。
ブルースの事で取り乱す事はよくあるが、恐怖に近い表情をする事はあまりない。
それだけにエメラルダやローザ、シアンは不安に駆られる。
「あの魔法は本来は集団戦闘で使う物なのよ。数名で詠唱してより多くの相手を飲み込むの。穴が開いているように見えるけど球体で、触れた瞬間からどこかへと消えてしまうの」
「えっと、じゃあブルー君の体はどうなってるの?」
「分からないわ。ただあの場所にはもうブルーの上半身は無くて、どこかへと行ってしまっているはずよ」
「じゃあじゃあ、ブルーは死んでないんだね? ダネ?」
「……生きている……はずよ」
その頃ブルースの上半身は雲の上にあった。
腹から上だけが雲から生えるように出ており、下半身や断面がどうなっているのかわからない。
「どこだろう、ここ」
そんな場所の雲の上にいるなんて、一体どうなっているのかと悩むブルース。
「でも僕の反応が王都にあるって事は、下半身はアリーナにあるって事だよね? それなら」
両腕を前に伸ばし、腕の下にある発射口からミサイルを数発撃ちだす。
「おい審判! 勝負はついた、勝利宣言をしろ!」
審判も困っているが、確かに上半身は無いし試合続行は不可能に見える。
しかし残っている下半身が動いているのだ。
歩こうとしたりジャンプしようとしたり、まだ意識がある事は確実であり、宣言をしてもいいモノかと悩んでいる。
「い、いえ、まだ反応がありますし敗北宣言も出ていません。続行です!」
「ふん! それならば下半身も飲み込んでや……何の音だ?」
空から風を切る様な、ゴーッという音が聞こえる。
空を見ると長い糸の様な雲が数本出来ており、その雲は闘技場をめがけて進んでいる。
雲がスッと下降するとアリーナめがけて雲が進んで来た。
「雲……? なぜ雲が進んで来るんだ?」
そう思った時はもう遅かった。
雲はアリーナに衝突すると大爆発を起こし、シャルトルゼは爆発に巻き込まれて宙を舞う。
「ぬおあー!」
十メートル以上吹き飛ばされ、どうやら左腕を強く打ったのか腕を押さえてうずくまっている。
八本のミサイルがアリーナめがけて発射され、見事にシャルトルゼに命中したのだ。
魔法を維持できなくなったのか
そして完全に
「戻って来れた! 良かった、魔法を解除しても体が分かれたままだったらどうしようかと思った」
自分の体を確認し、無事を確認すると周囲を見回す。
床にうずくまり腕を押さえているシャルトルゼを確認すると、ブルースはゆっくりと歩き側に立つ。
「兄さん降参してください。これ以上やると怪我では済まなくなっちゃうから」
今まで見下していたブルースに情けをかけられ、一気に怒りが頂点に達したシャルトルゼは腕の痛みも忘れて右腕をブルースへ向ける。
そして魔法を発動しようと……銃声が一発だけ鳴り響く。
ブルースの右肩のガトリングガンがカラカラと回転し、止まる。
何も言わないブルースだが、シャルトルゼは泣き叫び暴れ出す。
「うわあ! うわぁぁあああーー! 腕が、私の腕がー!」
ブルースに向けて伸ばされた右腕は、ブルースのガトリングガンにより真っ直ぐに撃ち抜かれた。
手のひらから入った銃弾は肩へと抜け、骨を完全に砕いて肉を内部から破壊したため、中心に穴が開き腕はあちこちが引裂かれている。
二十ミリ弾が腕を貫通して、よくも吹き飛ばなかったものだ。
シャルトルゼは泣き叫んで地面を転がり、「治療を! 誰か、誰か助けてくれ!!」と叫んでいる。
その発言を戦意喪失と受け取り、審判はブルースの腕を持ち上げる。
「勝者、ブルース!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます