37.聖女の次の顔

 首都防衛戦は順調に進み、中型・大型モンスターの数は残す所あとわずかとなった。

 ブルース達は三分の一程を倒し終えた後は、重装歩兵ファランクスで参戦していた。

 

「もう一丁! くらえ! レイジングスイング!」


 ローザの技が炸裂し、周囲のモンスターが吹き飛ばされ……胴体が真っ二つになった。

 以前は吹き飛ばすだけだったはずだが、どうやらレベルが上がり威力が上がったようだ。

 

「おいおい、あのねーちゃんどうなってんだ? まさかここまでモンスターの数が減ったのは、あのねーちゃんと聖女セイント様のお陰か?」


「さあなぁ、一緒に居る男は重装歩兵ファランクスだから盾役以外では役に立たねーしな」


「おれ、今のうちにつばつけとこかな」


 ローザとオレンジーナは二人で二千~三千匹は倒している。

 もちろん二人でこの数は驚異的だ。

 ブルースの活躍はさらに上ではあるのだが、残念ながら落とし穴の火の壁で活躍が見えていなかったのだ。


「姉さん、ローザさん、ここはもう大丈夫そうだから、場所を移動しましょう」


「はーい。オレンジーナさん、フォロー助かります!」


「いいえ、聖女セイントの本懐は後方支援だもの」


 場所を移動するのだが、そちらも既に終了間際であり手が余っていた。

 なので順番に先へと進むのだが、どこも手が余っている様だ。


「戻りましょうか」


 朝から始まった戦いだったが、気が付けば日が沈もうとしている。

 緊張と興奮で忘れているが、休憩すら取らずに戦い続けていたのだ。

 それに気が付くと一気に疲れが出て来たのだが……首都に戻ると大歓声で迎えられた。


「うおおー! 今回の最高勲章者だー!」

「おかえりー!」

「ありがとうなー!」

「きゃー聖女セイントさまー!」


 戦いが終わりを迎えようとしているので、住民たちは安心して家を出てきたのだろう。

 オレンジーナは慣れているようで笑顔で手を振っているが、ブルースは重装歩兵ファランクスフル装備で顔を隠し、オレンジーナの背中に隠れている。


 ローザは一番はしゃいで両手を振っている。


 ★☆天界☆★

「ねぇ? あれってミサイルよね?」


「そうだね、巨大なトゲトカゲホーンレプタルを倒したのは対地ミサイル、いわゆる対戦車ミサイルで、他を倒したのは対空ミサイルだね」


近接防衛火器きんせつぼうえいかきシステムっていう割には攻撃的じゃない?」


「あ~……本当はミサイルでミサイルを迎撃する近接防衛火器システムファランクスの派生形なんだけど、ミサイルのサイズが合えば使えるかな? と思って対地ミサイルのメモ書きをしておいたんだけど……ははは、まさか使えるとは思わなかったよ」


巨大なトゲトカゲホーンレプタルを倒せたって事は、ドラゴン種も倒せるって事?」


「上位三種とその下は時空装甲を持ってるから無理だけど、それ以外は倒せるね」


「ちなみに経験値は?」


近接防衛火器システムファランクスとの相性がバツグンだから、百分の一以下になるよ」


「じゃあ沢山倒しても第四ランクには時間がかかるわね」


「そうだね、でも今ので聖女セイントのランクが上がったようだよ」


「あらら、聖女セイントの上位スキルは……あ」


「どうしたんだい? あ」


 ☆★地上★☆

「どうしたの姉さん、具合でも悪いの? ひょっとして怪我をしたの!?」


 宿に戻った三人だが、どうにもオレンジーナの様子がおかしい。

 おかしいというよりも落ち込んでいる? 悩んでいる? ようにも見える。

 ベッドの腰を下ろし、両手で顔を覆いながら口を開いた。


「違うの……違うのよブルー。怪我はしていないわ、むしろとても調子が良いの」


「はえ? 調子が良いのに落ち込んでるの? あ! ひょっとしてオレンジーナさんも!?」


 顔を手で覆ったまま首を縦に振る。

 どうやら知らない技が大量に頭に入って来たため、自分のランクが上がりボーダーレスになった事に気が付いたようだ。


「なによ、何なのよコレ。鞭打ちの円柱とか、アビルの衣とか、クーダーバハの箱って、経典に出て来る伝説の聖遺物せいいぶつじゃない……これを具現化する力って何なのよ!」


 そう、オレンジーナの新しいスキルは『聖具保管者サクリスタン』といい、聖遺物を具現化して使える能力なのだ。

 今はレベルが低いので数は多くないが、レベル99になったら凄まじい数の聖遺物を使う事が可能だ。


「じ、ジーナ姉さん? どうしたのそんなに大声を出して」


「怖いのよ! 自分がボーダーレスになったのはいいの、でも聖遺物を直接使うなんて聖職者として禁忌に近いわ! 聖遺物は収集・保管して、研究や布教に使う物なのよ!」


 オレンジーナは信心深いわけではないが、聖女セイントとして神をあがめるのは当たり前だ。

 その神が使ったとされるものを具現化し使うなど、恐れ多いにも程があるのだろう。


「それって凄い事でしょ? なんでそんなに悩むんですか??」


 ローザは単純な能力アップ、新技の増加だったので問題なかったが、オレンジーナの場合は信仰対象の力を使うので、事は単純では無いようだ。


「じゃあ姉さんもボーダーレスになった事は秘密として、その力は正しく使わないといけないね」


「それが怖いのよ……私は自分で言うのも何だけど暴走しがちよ? ブルーに何かあったら際限なく使ってしまうのは目に見えてるもの」


「それって今までと何か違うんですか?」


「え?」


「だってオレンジーナさん、ブルー君の事となったら何でもしてましたよね? 死者蘇生とかすっごく怖い笑顔とか」


「そういえばそうだね。今までとあんまり変わらないんじゃない?」


「……そ、そういう事じゃ……あら? 変わらないのかしら」


 否定しようとしたが、言われてみればその通りなので思わず考え込んでしまうオレンジーナ。

 その様子を笑顔で見るブルースとローザだが、オレンジーナは思ったより早く答えを出した。


「じゃあこの事は秘密にして、聖遺物はおいおい調べるとしましょうか」


「そうだね、それがいいよ」


「そそそ。あー、ねえお腹空いちゃった、何か食べてこようよ!」

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