30.観客全員が人質

「くそっ! あいつら爆弾を投げてきやがったのか!?」


「バカ野郎! こんな遠くまで爆弾を投げられるかよ!」


「じゃあ何なんだ!?」


「しるか!」


 男たちは剣や弓、斧などを手にするとブルース達を睨みつける。

 怒りが半数、下品な笑い顔をした者が半分で、弓を持つ者が矢を放つと同時に他の者が走り出した。


「何だか知らねぇが、一気にカタをつけちまえば良いってもんよ!!」


聖女セイントと勇者殺しだ! いい金になるぜェ!」


 どうやらどこかの国が送り込んだ刺客しかくではなく、ただの物取りの類のようだ。

 勇者を倒した者達のウワサは市中に広がっているようで、変な趣味を持つ金持ちが欲しがっているのだ。


 一瞬だけ爆音が鳴り響いた。


「きゃっ!」


「うわぁ!?」


「な、何の音だ!!」


「み、耳が……」


 四人が周囲を見回すが、すぐ近くでなったはずの音源は見当たらない。 

 はっと正面を見ると、そこには倒れて血を流し……体のあちこちがえぐれた十体の死体が転がっていた。


「……え?」


「これは……どういう事だ」


「魔法? いやこんな魔法は知らない」


「体が破裂したようにえぐれているわね」


 一瞬だけ近接防衛火器システムファランクスを出して発射したようだ。

 たかが十人程度なので、一秒も必要ない。


 それを知らない四人は逆に周囲を警戒するのだが、落ち着き払っているブルースとローザを見て、オレンジーナは何かに気づいたようだ。


「追っ手はこれで終わり?」


「うん、もういないみたいだね」


「そ。あなた方は勝手に見張っていてください。私達は私達で勝手に楽しんでいますから」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗り込み、メリメッサ共和国の首都へと向かう。

 時速五十キロメートル以上の速さで走っているが、三人の見張りは離れる事なくしっかりと付いてきた。

 時速五十キロメートルで走れるとは、国王から任務を任されただけはある。


 それからしばらく走り首都に着いたのだが、一国の首都にしては防壁があまり大きくなく、精々が十メートル程度しかない。

 これだと人間相手には通用しても、大型モンスターは防げないだろう。


 門の通過はオレンジーナが通行証を持っていたため、特に検査もなく入る事が出来た。


「へ~、共和国ってどんな国かと思ったけど、大きさは王都とあんまり変わらないね!」


「そうね、どの国も首都は大体同じようなモノだわ。あとは国の特色が出る程度かしら」


「この街の特色はなに?」


「そうね、この街の特色と言えば……美味しいご飯かしら」


「ごはーん! 何が有名なの!?」


「肉料理が有名ね。大きな肉の塊を削ぎ取って食べるの」


 じゅるりとよだれを拭うローザ。

 体は小柄だが力があるので燃費が悪いのだろう。

 早速料理屋に入るのだが、一メートルはありそうな棒に巻かれた肉を、ローザ一人で食べきってしまった。


 翌日には植物園に行くのだが、やはりこの季節は花を見に来る客が多い様で、行列になっていた。


「凄い数だねジーナ姉さん」


「本当ね。でもそれだけ期待できるわ」


「ブルー君、オレンジーナさん、あれはなに?」


 列に並んで待っていると、ローザが何かを見つけた様だ。

 その目線の先には空を飛んでいる鳥……にしては随分と大きく見える。

 徐々に近づいて来ると、どうやら首が長く、尻尾もながい。


 鳥というよりも爬虫類に近く見えるし、何やら人が乗っている様だ。


「あれは龍騎士ドラゴンナイト!? メリメッサには龍騎士ドラゴンナイトは居ないはずよ!」


 人を乗せた真っ赤な龍は、植物園の屋根の上に降り立った。

 客たちが騒ぎ出すが、龍の鳴き声で静まり返る。


「紳士淑女の皆様! 私はファルゲン連邦の者です! たった今より皆さんには私達の人質となって頂きます。植物園の敷地内にいる全ての方々の自由を認めません! 我々の要求がメリメッサ共和国に認められない限り、あなた方の命は三日で終わります!」


 龍騎士ドラゴンナイトの声に気を取られていたが、その間に植物園の周囲は民間人に変装していたファルゲン連邦の兵士に囲まれてしまった。

 護衛をするといっていた三人も変装を見破れなかった上に、敷地の外にいる様だ。


「ブルー、新しいファランクスで龍騎士ドラゴンナイトを倒せる?」


「多分大丈夫だけど、周囲を囲まれてるから無理だよ」


「え? 周囲を?」


「オレンジーナさん、多分ファルゲン連邦の兵たちが変装してたんだよ」


 オレンジーナは気付いていなかったが、周囲を見回すと遠くには槍を持った者が複数名確認できた。

 たとえ龍騎士ドラゴンナイトを倒せても、これだけの兵を倒すには時間がかかるし、民間人の命を危険にさらす事になる。


「姉さんの加護で観客だけを守れない?」


「加護は範囲を指定しなくちゃいけないの。だから正確な範囲がわからないと無理よ」


「ローザさんは何か出来ない?」


「これだけ民間人がいたらダメダメだよ」


 三人でヒソヒソ話をしているが、どうやら打つ手が無いようだ。

 観客がいなければどうとでもなるが、この場で言っても詮無きことだ。


「我々の要求はただ一つ、侵略行為を中止し、即時撤退する事である! そして賠償責任を果たす事だ!」


 ファルゲン連邦は小国であり、メリメッサ共和国はファルゲン連邦の倍以上の領土を持つ。

 メリメッサ共和国が本気を出せば簡単に攻め滅ぼせるだろう。

 それをしない理由は単純で、ファルゲン連邦は小さいながらも資源が豊富なのだ。


 攻め滅ぼして資源が台無しになっては意味がない。

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