27.姉妹交代

 戦いが終わり、後は帰還するだけとなった。

 とはいえ一万五千以上の捕虜を連れての帰還なので、王都や各街から応援を呼ぶ必要がある。

 自分達と同数の捕虜の管理など出来ないのだから。


「そういう事で、お前達は先に出発して応援を呼んで来い。ソレは足が速いんだろう?」


 レジナルドがテント内で書類を見ながらブルース達に命令をする。

 なにぶん捕虜の数が多すぎるので、やる事が山の様にある様だ。

 だがそれに異を唱える者が居た、弟のジャレイだ。


「兄上、貴族や名のある兵士以外は、解放した方が良いのではありませんか?」


「そうだな、それも考えた。なにせ金にもならない連中だから、さっさと捨ててしまおうか、とな。だがこの状況は利用できると思わないか?」


「利用ですか?」


「そうだ。この大勝を大っぴらに宣伝したら、トランポール国の兵士や国民は不安がるだろう。なにせ勇者まで失ったんだからな」


「それは……そうですが」


「だから俺達は慈悲を持って対応するんだ。軍事力だけではなく、国として人命を大切にしているとな」


「兄上、一万五千の捕虜全てに値段を付けるおつもりですか?」


「はっはっは! 流石に話が早いな。国民を大事にしない国からは人が減る、トランポール国は捕虜を買わないと、国民の心が離れ、兵達は不安で戦場で積極的に戦わなくなるからな」


 身代金を要求するのは基本的に貴族を捕虜とした場合だけだ。

 しかし今回はあまりに数が多いため、別の手段でトランポール国の力をごうというのだ。


「一体いくら要求するつもりですか?」


一兆ゴルド一兆円は要求するつもりだ」


 話が終わり、ブルース達は陣地を出発した。

 王都へ向かう途中にある街に立ち寄り、応援を向かわせる様に伝えて回る。

 実際に捕虜たちが収監されるのは途中にある大きな街なのだが、王都からも応援が必要なため急ぎ各街に連絡に回った。


 数日かけて回り切り、ようやく王都に到着した。


「……もう着いたのか。この馬車に乗っていると距離と時間の感覚がおかしくなるな」


殿下でんか、慣れですわ、慣れ」


 ジャレイにそう言うエメラルダだが、エメラルダ自身はペガサスに乗って高速移動が可能なため、大して感覚にずれが出ていない。

 国王にジャレイが帰還した事を報告し、謁見の間を出るとジャレイの執務室へと入った。


「あ~……疲れ……てないな。思った以上に快適だった。兄上の変な命令以外は」


 ソファーに座りため息をつくが、精神的には多少疲れていても、肉体的な疲労はあまりなかったようだ。

 ブルース達にも座る様に促すと、メイド達がお茶の準備を始める。


殿下でんかお帰りなさいませ」


 直衛の四人が部屋に入ってくると、一緒にオレンジーナも入ってきた。

 直衛達はジャレイをねぎらうが、オレンジーナは真っ直ぐブルースの後ろにまわり、ソファー越しに頭を抱きしめた。


「お帰りなさい! 話は聞いたわ。流石ねブルー! ジャレイ殿下でんかの護衛どころか、勇者まで倒したんですって? もう鼻が高いったらないわ!」


「ただいまジーナ姉さん。でも勇者は僕だけじゃなくて、エメとローザさんがいたから倒せたんだよ」


「そうだったわね。お疲れ様二人とも、よく頑張ったわ」


 二人とも照れているが、今までもあちこちで話題になり褒められている。

 だが改めて褒められると嬉しい様だ。

 

「それはそうとエメ? お父様とお母様が心配していますよ」


「え? ちゃんとしばらく留守にすると伝えた筈ですわ?」


「そうであっても、成人前の娘が何日も家を空けるなんて、心配して当たり前よ?」


「それを言われると言い返せませんわ。わかりました、早めに帰る事にします」


「そうしてちょうだい。今度は私がブルーと一緒に行くから」


「「「え?」」」


 ブルース、エメラルダ、ローザの三人どころか、ジャレイまでが耳を疑った。

 オレンジーナは聖女セイントであり、国内でやる事が山積みなのだ。

 そのオレンジーナがブルースと行動を共にするなど、許可が出るはずがない。


「ジーナ姉さん? 聖女セイントの仕事はどうするの?」


「一ヶ月後までの仕事は終わらせたわ」


「でも仕事は舞い込んでまいりますわよ?」


「しばらくならば、他の者でも対応できるようにしたわ」


聖女セイントって国に祝福をかけてるんじゃないの?」


「来年分までの祝福を重ね掛けしたわ」


 三人が疑問をぶつけるが、どうやら全てクリアーしている様だ。

 聖女セイントは国に所属しているため、個人的な用事は後回しにされる。

 しかしオレンジーナはどうにかして時間を作ったようだ。


「こ、こほん。オレンジーナが行くのならば、私ももうしばらくブルースに護衛をお願いしようかな?」


「ジャレイ殿下でんか? 護衛の依頼は王都に戻るまでです。今日をって完遂しております」


「え? えっと、そうだオレンジーナ、久しぶりに君の紅茶が飲みたいのだが」


「あいにく今日は持ち合わせておりません」


 とても素気そっけなくあしらわれ、落ち込むジャレイ。

 どうにも彼の思いは伝わっていない様だ。


「ではブルースの報酬はいただいて行きますね。さあみんな、まずは宿へ戻りましょうか」


 オレンジーナに言われ、確かに用事は終わったのだからと部屋を出て城を後にする。

 以前も利用した宿に入り、ブルースの部屋に全員が集まった。


「さてみんな、一体どういう事かしら?」


 部屋の扉を閉めると、オレンジーナは三人を見回した。

 質問の意味を理解できないでいると、オレンジーナはため息をついてイスに座る。


「ブルーとローザさんのオーラが変わっています。エメラルダもとても強いオーラを発しています。勇者を倒した事と関係していますか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る