23.第二王子の思惑

 ブルース達が戦場を移動し、主戦場となる場所へとやってきた。

 本来なら馬車で四日、馬でも二日はかかるため、いきなり現れたジャレイの姿に味方は驚いている。

 司令部となる大きなテントの前で、何やら打ち合わせをしていたようだ。


「ジャレイ? なぜここにいるんだ! まさか戦闘が嫌で逃げて来たんじゃないだろうな!」


「違いますよ兄上。敵は全滅しました、ただ……私たち以外の味方も全滅しました」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスから降りて、随分と威厳がありそうな男に話かけるジャレイ。

 兄上、と呼んでいる事からジャレイの兄、第二王子だろう。

 ジャレイとは違い随分と鎧を着こんでおり、髪は角刈りで目を見開いているため、とても威圧感がある。


「全滅? お前たち以外は全滅という事か? ではやはりそちらに戦力を集めていたのだな」


「どうかされたのですか?」


「いやな、こちらから攻めれば後退し、こちらが後退しても中々戻って来ないんだ。明らかに及び腰で、とても戦意を感じられない。ひょっとしたら増援を待っているのかと思ったのだ」


「なるほど、つまり敵は勇者を私の方に差し向けて、こちらを全滅させたのちに主戦場に現れる手はずだったのですね」


「そうだな、上手くいけば側面を突ける……勇者? お前、まさか勇者と戦ったのか!?」


「私は何もしていませんよ。倒したのはこちらの三人です」


 ジャレイが紹介すると、ブルース、エメラルダ、ローザの三人が頭を下げる。

 やはりここでもエメラルダは第二王子を知っている様だ。


「お久しぶりでございますレジナルド殿下でんか


「おお、エメラルダ嬢ではないか。久しいな、息災だったか」


「お陰様で」


「ふむ、勇者を倒すとは、天馬騎士ペガサスナイトとは勇者以上に強いのだな」


「いえレジナルド殿下でんか、勇者を倒したのは三人の力があったからです。私一人では手も足も出ませんでした」


 そう言って両横にいるブルースとローザの背中を押して、改めて紹介をする。


「は、初めましてレジナルド殿下でんか、ぶ、ブルースと申します」


「わ、私はローザです! はじめまして殿下でんか!」


 二人を睨みつけるように見ると、レジナルドは二人にぶつかりそうな距離まで顔を近づける。

 そして何かを納得したのか「ふむ」といって離れていく。


「どうやらブルースは重装歩兵ファランクスにしては強く、ローザは剣士ソードマンにしては強い様だ。いつか手合わせを願いたいものだな」


 切り株のイスにドッカと座ると、大きなテーブルに置かれた地図を指さす。

 ジャレイが近づいて地図を見ると、味方は平地に陣取り、敵は森の近くに陣取っているのがわかる。

 どうやら今から作戦会議を始めるようなので、ブルース達三人は前と同じように席を立とうとした。


「お前達も残れ。勇者を倒したというのならば、ここに残る資格がある」


 そう言われはしたが、三人はジャレイの護衛でありこの戦いの部外者だ。

 三人で顔を見合わせるが、ジャレイが口を開く。


「君たちも残るといい。思った事があれば発言もしていいよ」


「……わかりました。ジャレイ殿下でんかの御命令とあれば、僕たちも参加します」


 エメラルダは慣れているのか平然とテーブルに近づくが、ブルースとローザは控えめだ。

 二人とも平民(ブルースは元貴族だが)なので、かなり抵抗があるのだろう。


「さて、敵の勇者を倒したのは何日前だ?」


「昨日です兄上」


「……おい、お前がいた場所からここまでは、馬車で四日はかかるんだぞ?」


「それはブルースの鉄の馬車のお陰です。アレは馬よりも早いですから」


 言われてレジナルドは魔動力機関装甲輸送車ファランクスを見る。

 ブルースを見て、魔動力機関装甲輸送車ファランクスを見て、ジャレイを見る。

 机を指で叩きながら少し考え、ブルースを見た。


「それほど速いのならば、頼みたい事がある。補給部隊が遅れていてな、今はまだいいが十日もしたら食料や薬が不足するだろう。その馬車に詰めるだけでもいいから物資を運んでくれないか?」


「それは構いませんが、私の任務はジャレイ殿下でんかの護衛です、なのでジャレイ殿下でんかと共に行く事になりますが」


「構わん。どうせこいつは戦場じゃ役に立たんからな、積み込みを手伝わせればいいぞ」


「あ、兄上? 一応私も王族としてですね――」


「行ってこい」


 ジャレイの言葉を遮り命令をする。

 ジャレイとしても兄に命令をされてしまっては断れず、もちろんブルースに選択権などない。

 だがそうなると困るのがエメラルダとローザだ。


「レジナルド殿下でんか、私達も共に補給を――」


「ならん。お前達は戦列に加われ、俺の直属に入るんだ」


「え? でもブルー君と一緒に護衛の仕事が……」


「俺が良いといっている。何か問題が?」


 第三王子よりも第二王子の方が上であり、ここでの最高司令官はレジナルドだ。

 その命令に歯向かう事など出来なかった。


「ジャレイとブルースは補給を急げ、残った者は共に戦うのだ。総員戦闘態勢を取れ!! 一刻も早く敵戦力を削ぐのだ!」

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