22.ファランクス:近接防衛火器システムCIWS

 首のない勇者の遺体が地面に転がり、遂に動かなくなった。


「倒し……たのよね?」


「……うん、倒せたんじゃない?」


「僕たちの……僕たちの勝ちだ!!」


 パリン!

 何かが弾けた。

 ブルースの頭の中で大量の歯車が回りだし、巨大な鉄の門が開かれていく。

 重厚な門が開くと中から何かが姿を現した。


「うがぁ! ま、またこれ!? 一体何なんだ?」


「お兄様? どうされたんですか?」


「ブルー君?」


 ブルースの心配をしていると、周囲にいた敵兵は大声を上げ始める。


「勇者様が!?」

「嘘だ、嘘だ!」

「お前らは許さん! この場で切り刻んでやる!」


 勝った方はそのまま帰る、と言ったが、何も襲わないと約束したわけではない。

 なので敵兵約千七百は一斉にブルース達に襲い掛かり、ジャレイ殿下でんかも今まさに殺されようとしていた。


「クッ! お兄様、ペガサスに乗ってお逃げください!」


「ブルー君逃げて!」


 焦る二人に対してブルースはとても冷静だった。

 敵が何人いても、全く怖くなかったのだ。


「大丈夫だよ二人とも」


 突然! 爆発音が鳴り響いた。

 いや爆発音の間隔があまりに短く、まるで大瀑布だいばくふの水の音にも聞こえる。

 二人は両耳を手でふさいだが、ふと周囲を見ると立っている者が居なくなっていた。


「……え? 一体何が起きたんですの?」


「わわ!? 何コレ!!」


 二人の目の前には全高四.七メートル、幅約二メートル、円筒形の筒の下に六砲身のガトリングガンを装備し、各種センサーを装備した自動攻撃システムが鎮座していた。



 ★☆天界☆★

 それを天界で見ていた二人の神は、頭を抱えている。


「ほ、ほらぁ……アナタが変なフラグを立てるから……」


「私の責任ではないよ? 勝てるはずがなかったんだから」


「で、あれは何なの?」


「あれは第三ランク世界のファランクス、近接防御火器きんせつぼうえいかきシステムCIWSだね」


「だからそれは何よ」


「簡単に言うと、全自動で敵を見つけ、全自動で攻撃してくれるシステムだね」


「今、ほんの数秒で二千人近くが死んだんだけど!?」


「ああそれはね、二十ミリ弾が毎分三千発の速さで撃ちだされたんだ、二~三秒もあれば生身の人間なんてミンチになっちゃうね」


 喜々として武器の解説をする男神に対し、頭が痛いのか頭をおさえる女神。

 この男神は武器を司る神のようで、武器解説が大好きのようだ。


「人間相手には過ぎた武器ね……」


「いやいや、人間どころか一人で城を攻め落とせるよ?」


「なに嬉しそうに言ってんのよ! そんなん個人に与えたらダメな奴じゃない!」


「キミ忘れてないかい? ここまで来たら、第四ランク世界や第五ランク世界の武器まで解放するかもしれないんだよ?」


「わかってる、わかってるわよ! ブルースが異常だってのは今ので理解したわ! でも城攻めなんて必要ないじゃない!」


「まぁまぁ、でも第五ランク世界までが精いっぱいさ。そもそも近接防衛火器システムファランクスは勇者以上に全ての相手に優位属性だから、経験値は十分の一以下になるからね」


「本当に? 本当に大丈夫?」


「大丈夫さ」


「そっか……第五までなら我慢する。それはそうと、あの女の子たち、ランクアップした?」


「えーっと、伝馬騎士ペガサスナイトの子はレベル91、剣士の子は……あ、上がったね、剣闘士グラディエイター」になってる」


「この子はアレかしら、ブルースという例外を除いたら、この世界初めてのランクアップ者?」


「そうなるね。でもあのお姉さんがいるから、これも隠ぺいするかもね」



 ☆★地上★☆

 隠ぺいするかどうかはオレンジーナ次第だが、新たな武器近接防衛火器システムファランクスを面白そうに見ている三人。


「お兄様、これで敵兵を倒したんですの?」


「そうだね、僕の新しいス……武器だよ」


「え? スキルじゃないの?」


 ボーダーレスとなったブルースの事は秘密なのだが、ローザは忘れていたようだ。

 ブルースとエメラルダが静かに口に指を当てると、あ! と思い出した。


「ふ、ふぅ~ん? スゴイブキダネー」


 すっとぼけながら、ジャレイにバレていないかチラ見している。


「ぶ、ブルース、これは何なんだ? 武器なのか?」


「はい! 鉄の馬車に付随する武器でございます」


「す、すごくやかましかったが」


「はい! そういう武器なのです!」


「そ、そうか。それで鉄の馬車はどこへ行ったんだ?」


「それでしたらあちらに」


 こっそりとジャレイ達の後ろに魔動力機関装甲輸送車ファランクスを出してあり、スキルを解除して消したとは思われていないようだ。


「ま、まぁ私は戦いの事は詳しくないからな、それよりも、味方はどうなったのか確認をしたい」


 ジャレイの要望で、魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗り戦場となるはずだった場所へと移動する。

 そこには……恐らくは全滅したであろう味方の死体が散乱していた。


「相手には勇者が居たから仕方がないが……想定外もいい所だ」


 一人で戦況をひっくり返す存在、それが勇者だ。

 こんな片隅の戦場に出て来るとは思わず、まさかの事態となってしまった。

 しかし敵を全滅させ、ブルース達は生き残ったのだ。


 辛勝しんしょうと表現される結果だが、相手に勇者がいた事を考えると、この戦いの勝利は非常に大きいだろう。


「戦いは終わりました。城へ帰りますか?」


「いや、予定ではココの戦いが終わったら、メインとなる戦場へ合流する手はずだったんだ。予定よりも大幅に早く、しかも戦力が無くなってしまったがね」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスでメイン戦場へと移動を開始し、翌日には到着した。

 どうやらこちらの戦場には第二王子がいる様だ。

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