20.いにしえの魔法
「ローザさん! そこは邪魔ですわ!」
「そっちこそ! こっちの邪魔しないで!」
勇者と戦闘を開始してすぐ、エメラルダとローザが同時に勇者に襲い掛かる。
のだが、我先にと戦いを挑んだため連携が取れていない。
そこにブルースが
「なんだ……なんなんだお前達は!! さっきの威勢はどうした! 俺を倒すんじゃなかったのか!!」
勇者が相手の不甲斐なさにイラだっている。
それもそうだろう、さっきまでのエメラルダとローザの二人と戦っていた時の方が、はるかに連携が取れていたのだから。
それが今はどうだろう、
作戦? その可能性もあるが、果たして勝てるのだろうか。
「ぶ、ブルーお兄様? お兄様は
「ブルー君! 一緒に戦えるのは嬉しいけど、少し下がってて!」
「何言ってるんだ! 二人じゃ手も足も出てなかったじゃないか!」
そう言って誰一人連携を取ろうとしない。
ブルースなどは
勇者は呆れているのだが、勝負を受けた以上戦わなくてはいけない。
しかし勇者はやる気が無くなったのか、早々に勝負を終わらせるつもりだ。
「
勇者が剣を振り回すと三人は弾き飛ばされ、地面に尻を着く。
三人がすぐに動けないのを確認すると、勇者は剣を地面に付きたてて呪文を唱え始める。
「この魔法は君たちを骨も残らない程に焼き尽くす。もう君たちの顔を見なくて済むようにね」
勇者が両手を向かい合わせると中に光が集まりだす。
その魔法は誰もが名前を知っている魔法だ、しかし実際に見たことがない知識だけの魔法。
「
太古の昔、まだ魔法属性という分類すらなかった時代、完全に無属性の広範囲魔法として数回使われた記録が残っている。
その魔法を現代において勇者が改良し、範囲指定・威力調整を施した魔法だ。
光が三人の体に集まり、大爆発を起こす。
爆発の範囲を指定した周囲のみに集約し、爆発力を向上させている。
だがあまりの爆発力に集約は解かれ、周囲に広がりキノコ雲が発生した。
爆発が治まり、煙が風で流されると……中心には勇者が立っていた。
そして周囲には倒れた三人の姿がある。
かろうじて息をしているが、もう動く力は残っていない。
「へぇ、私に歯向かおうとするだけあって、体力はあるんだな。まあいい、とどめを刺してやる」
勇者の右側にいたエメラルダに向けて歩き出し、剣を振り上げる。
エメラルダははっきりしない意識で勇者の足元を見ているが、今まさに殺されようとしている事にすら、気が付いていない。
「さようなら、後悔は地獄でするといい」
剣を振り下ろそうとした瞬間! 勇者に向けて何かが向かってきた。
「エメー!」
勇者は驚く事もなく、面倒くさそうな表情で振り向くと拳を握りしめる。
「もう興味が無くなったんだ。大人しく死んでくれないか?」
拳で
「え!? そんな!」
ブルースはアクセルをべた踏みするが、タイヤが空転するばかりで前には進まない。
アクセルを緩め、一旦バックするのだが、勇者はその隙にエメラルダにとどめを……いない。
「ん? どこへ行った」
エメラルダはローザに抱えられてその場を離れていた。
どうやら耐久力はローザの方が随分と上のようだ。
「ブルー君! っ、回復の時間を作って!」
ブルースは即座に反応し、もう一度
しかし今度は真っ直ぐぶつける訳でなく、ヘッドライトをハイビームで点灯し勇者に目くらましを仕掛けたのだ。
「ぐっ! なんだ、この強烈な光は!?」
しかし勇者は拳を構えたままなので、そのまま衝突しても防がれるだろう。
そこでブルースはハンドルを切り、ハンドブレーキをかける事で車体の尻を振り回し、勇者の横側に車体の側面を衝突させた。
流石の勇者も視力を失っている時に側面から攻撃を受けては耐えられず、数歩よろけてしまった。
「おのれ……まだ小細工する余裕があったのか」
自身に回復魔法を使い、すぐさま視力を回復させる勇者。
エメラルダとローザはポーションで体力を回復、ブルースの側に戻ってきた。
「ブルー君の突進を受け止めるなんて、勇者ってどんだけ?」
「お兄様、どうしましょうか」
ブルースもこのままでは本当に打つ手がないため、まだ残っている小細工を総動員する事にした。
『二人とも、こういう手で行こう』
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