第10話
何言いやがったって。
鼻先数センチのとこで信が………信我が俺を睨んでる。
ちょっと動いたら危うくキスになりそうで、俺はあげた手を俺と信我の顔の間に入れて、ちょっと離れた。
つかまれてる胸ぐら。
離してくれない胸ぐら。
正直に話したら俺ぶっ飛ばされるじゃん。
と思うけど。
嘘ついてバレた日には………。
だから俺は、もじょもじょと正直に話した。
「はっ」
失笑ってこんなの?
話し終わるまで離されることのなかった胸ぐらが、その笑いと一緒に離された。
「あほだな」
一言言われてムッとする。
照れとか変なカッコつけとかはあったけど、あるんだけど、それでも俺なりに色々考えて一応しいを………史季を心配して言ったことなのに、それを。
「そういうのすげぇ気持ち悪い」
「そういうのって何だよ。中3にもなって同性の幼馴染み相手に好きとか言って抱きつく方が気持ち悪いだろ、普通」
小学生じゃないんだぞ?中3だぞ?男同士だぞ?
おかしいだろ、どう考えたって。
おかしいだろ、普通。
言ったら信は、じろってまた俺を睨んで。
「『お前は』どう思ったんだよ」
言った。
『お前は』。そこをやけに強調して。
「………は?」
「史季に抱きつかれて好きって言われて、お前のために死ぬほど頑張ってきたって知って、『普通は』じゃなくて、『お前は』どう思ったんだ?思うんだ?」
「………え」
何。
お前はって。
俺は?
しいに抱きつかれて。
会いたかったって言われて。
ごめんって言いに言って、そのために来てくれたの?ってすげぇ嬉しそうに言われて。
好きって言われて。
別人みたいなしいが、俺のためって。
………だから、おかしいじゃん、『普通』。
あ。
それは『普通』に考えたらおかしいことだけど。
俺。
俺、は。
え、俺?
ぽかんってなって、え?え?ってなって、俺は思わず信を見た。
え、俺って何?って。
「『普通』とかクソどうでもいい。そういうのってめちゃくちゃクソだ。クソ気持ち悪いからやめろ」
「………どうでもいいけど、口悪くね?」
「クソどうでもいい」
「………」
確かに。
どうでもいいけど。自分でそう言ったけど。
「引退試合までにその気持ち悪いのどうにかしろ。どうにかしたのを史季に言え。じゃないと負ける」
「え、ちょ」
ちょ、ちょっと、信?信我さーん………。
言うだけ言って行っちまう信我の背中に伸ばした手がむなしく空を切った。
気持ち悪いのどうにかしろって。
しいに………史季に言えって。
………え?
どうしたらいいのか分かんなくて、しばらく俺はそこで突っ立ってた。
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