第9話
高さがないしいは、やっぱり不利なとこは不利だった。
上を抜かれることが多かった。
でもしいは、それを前後左右の動きでカバーしてた。
普通に、走るのが早い。
そしてドリブルしてても早い。
そのドリブルがうまい。パスも。
つまり、しいを抜くなら上しかねぇってこと。
しいがバスケ部って、しかもキャプテンってこうして見るまでは信じられなかったけど、見たら納得。しいが適任。
チームをまとめて引っ張って、ゲームを動かしているのは、他の誰でもない、しいだった。
すげぇ。
あの身体で。あの小ささで。
あのしいが。
あともうひとつすげぇって思ったのが。
わああって、歓声。
気づいたら、体育館には見物人がちょろちょろと集まってきていた。そいつらからの、歓声。
また決まった、しいの3ポイントシュートへの。
しいはゲームメイクだけじゃなくて、点数にも普通にすげぇ貢献していた。
だから、何かもう。
………もう。
あの日、俺があんなことを言わなくたって、しいを本気で怒らせなくたって、良かったんじゃね?
社交辞令だったんじゃね?つんちゃん好きってやつ。
俺の勘違い。早とちり。余計なでっかい世話。
「南‼︎」
しいが呼んで、鋭いパスを投げた。
さっきもシュートした背の高いそいつがそれを取ってシュート。ピッて笛。めくられる得点板。ディフェンスに戻りながらのハイタッチ。
アイツ。
見たことある。しいを見てるとよく一緒に視界に入る。違うクラスのはずなのに。
………違う、クラスの。
俺はもうそれ以上見てられなくて、増えてきた見物人の間を通って、そこから抜けた。
あれ、俺何でこんなとこに居るんだっけ?
はあああああってでっかいタメ息を吐いて、ふと我にかえって。
「翼」
「あ」
思い出したのと、呼ばれたのが同時。
そうだ、俺。信に………信我に無理矢理連れて来られたんだ。
しいがあまりにも別人すぎて、忘れてた。
「わり、お前のこと忘れてた」
「分かるか?」
「え?」
「分かるか?」
「何が?」
「分かんねぇのか?」
「だから何が?」
「分かんねぇんだったら、相当なあほだな、お前」
「はあ?」
何のことかが分かんねぇのにあほって言われてカチンと来てもういいって思った。
ブランク5年は人を別人にする。
またご近所幼馴染みでとか思ってた俺が、ああそうだな、あほなんだよ。
「お前気持ち悪い」
「………さっきから何だよ、お前」
「最近の史季も気持ち悪い」
「はあああ?」
「このままじゃ引退試合は負ける」
「………さっきからお前何言ってんの?」
誰か信我語翻訳機を開発してくれ。
確か昔も思ってた。信我の言いたいことがさっぱり分かんねぇ。微塵も分かんねぇ。
で、そう思ってまた思う。
昔と同じことを思うってことは、俺が、してないんだな。成長ってやつをって。
「何のために史季はここまで頑張ったんだよ」
「知らねぇよ。単なる負けず嫌いだろ」
「………本気でくそみたいにあほだな。お前」
「おい、信‼︎いい加減にしろよ‼︎さっきから‼︎」
イラッとして、思わずデカい声になった。
けど、なってからやべぇって思った。
信は………信我は基本ぬぼーってしててあんまり喋んなくて我が道しか道を知らないから我が道しか行かない超我が道男。
だけど。
ぱき。
一歩俺の方に来た信の足元で、落ちてた枝が折れた音。
信は、基本ぬぼーってしててぬぼーってしてるヤツ。
けど。
けど。
けど‼︎
グイって俺は、胸ぐらをつかまれて、一重の垂れ目に超至近距離で睨まれた。
「全部お前のためだ。お前のために史季はこの5年死ぬほど頑張ってきた。………なのに。お前、史季に何言った?何言いやがった?ああ?」
そう。信はキレると人格が変わる。
信はしいのことになるとキレやすい。
そして信は。
昔からテコンドーなんてものをやっていて、しかもめちゃくちゃ強くて、小学生の頃から何ちゃら選手とかで招集がかかるぐらいの………。
ごごごごごごめんなさいって、俺は思わず両手を上げた。
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