第610話 勇者のレゾンデートル(存在意義)17
俺は偽ウルフと戦っている。
あまりにも巧妙に化けているので、騙されてしまった。
しかし俺を騙すほどのことを数ということは、どこかでウルフが動いている可能性がある。
しかし、以前、会ったときにマーカーをつけておいたが、今、この世界にはマーカーの反応はない。
偽ウルフと対峙しながら、マーカーを追って、異世界まで検索魔法を伸ばしてみたが、奴は、そこにいる。
偽ウルフは、普通の速度で歩きながら、姿を薄くして消えた。
しかしウルフの気配は残ったままになっているので逃げた訳ではない。
あまりにも巧妙に姿を消した偽ウルフに、俺は最高レベルの検索魔法を発動する。
そうすると消えた偽ウルフの姿が確認出来て、今は俺よりもアリシアたちの方に移動しているみたいだ。
俺は、念話で『アリシア、今、そっちに偽ウルフが近づいている』と連絡をとった。
アリシアが念話で『うん、なんとなくわかる』と送ってきた。
俺はウルフの接近よりも、アリシアが何となくだがわかると言ったことに驚く。
俺でさえ、最高レベルの検索魔法を発動して確認しているのに、神獣たちならいざしらず、アリシアがわかるとは思っていなかった。
だからアリシアに念話で連絡を取ったのに……
ほんとうにアリシアは、あの時以来、見違えるように変わってきた。
まだできない魔法もあるが、一端では神獣たちのレベルを追い越している。
アリシア、すごい、努力もあるけど、何よりも、あの時のことがものを言っていると思う。
ということを考えれば、あの時の判断は、今となっては正しかったのか?
絶望に苛まれながら、判断したことが、生命の神クリスティアナのおかげで、正しかったのではないのか、と思いたい。
もし生命の神クリスティアナがいなければ、そうは思ってはいられないところだ。
偽ウルフは、まだ、姿を消しながら、アリシアたちの方に近づいているが、アリシアたちは、気が付かないふりをして誘き寄せている。
俺は、今の位置を動かずに、動向を追っている。
偽ウルフの動きに気がつかないようにすると言うことも、初めてやってみるが、難しい。
素知らぬふりをするということは難しいことなんだな、初めて知った。
徐々にアリシアたち、三人のメンバーに近づく偽ウルフ。
アリシアたちは、念話で他のメンバーと話し合っている。
ジャネットが念話で『バカ偽ウルフ、どうしようか?』
ロゼッタが『う〜ん、馬鹿さ加減に付き合うこともないと思う』
アリシアが『そうだよね、ここらで、あいつ、やっつけちゃおうか?』
ジャネット『うん、それがいいかも』
「じゃ、やろうか?」とロゼッタ
「うん、じゃ、三人でいこうよ」とアリシア
「うん、了解」とジャネット、ロゼッタ
俺が偽ウルフの動向を監視しているところに、本当に突然に魔法が放たれる。
「えっ」
俺はあまりにも急だったので、驚くしかなかった。
こんなにも突然に魔法が使えるだなんて、敵じゃなくてよかった。
ロゼッタは指をサッと伸ばして、ビームを放つ。
ジャネットも負けじと同じように指を伸ばしてビームを放つ。
アリシアは、何をするのかというと一呼吸、置いて、やはり指からビームを放つ、
えっ、アリシア、指からビームなんて、打てるようになったの?
”えっ”と一瞬、思ってしまった。
一瞬、遅れて放つビームは、先行する2人の神獣のビームにも劣るどころか、威力がすごい。
あとで放ったビームにもかかわらず、アリシアのビームは先に届いてしまう。
「うわっ」と透明になって見えないと思っている偽ウルフがうめき声を上げる。
それから一気に偽ウルフは燃え上がってうめき声も悲鳴も出すことなく、燃え上がって黒焦げになってしまった。
偽ウルフが、黒焦げになってしまったおかげで、情報も引き出せなかったが、奴が喋るとは思えない。
どうしてウルフの衣を纏っていたのか、なぜ、ウルフと同じドス黒い魔力を放つことができたのか、しかし、所詮、偽物は偽物でしかない。
俺が偽ウルフに近づいても、奴は、死んでいる。
検索魔法で、調べても死んでいる。
「アリシア、さっきの指から放つ、ビーム、すごかったね」
「うん、ジャネットとロゼッタに教えてもらったの」
ジャネットが「最近のアリシアは、素質がいいですからね」
アリシアの方を見たら「えへへっ」と笑っている。
「アリシアの努力の成果だね」
「前はできなかったことが、最近は、できるんだよ、どうしてかわからないけど」
「そうなんだ」
「うん、だから、使ってみたくて、みんなと同じ魔法にしたんだ」
「それで、あの威力?」
「うん、頑張ったでしょう?」
「うん、えらい、アリシア、えらい」
「えへへっ」
ジャネットが「そういえば、ご主人さま、ご報告があります」
「うん、なに?」
「勇者の件ですが」
「何か、わかった?」
「はい、少しだけですが」
「で?」
「はい、勇者は、実際に存在しているみたいですが、まだ、あっていませんおで、真実は分かりません」
「そうなんだ、じゃ、他のチームも、まだみたいだね」
「はい、その通りです。いかがいたしましょうか?」
「う〜ん、そうだね、このまま、探してくれる?」
「それはいいですが」と行ったところで上空に待機していた、メンバーが転移で降りてきた。
メンバー同士で話があるみたいなので、俺は少し離れたところで、考えている。
もしかしたら本物のウルフの奴が動いていないのか?
ワナという可能性もあるからだ。
しかし、この世界にはウルフの気配はない‥‥‥
と思って、あっちの世界にいるのかと、検索してみると、気配が感じられない‥‥‥
えっ‥‥‥
どこに行った?
失敗した
ウルフの気配を見失った。
やはり、偽ウルフは囮だったのか?
どこに行った?
俺は急いで、世界中に検索魔法を張り巡らせる。
しかし、この世界にはいない‥‥‥
しかし、魔族の世界にもいない‥‥‥
二つの世界のどこにもウルフの気配がない?
どういうことだ?
俺は目を閉じて、魔法を広げていく。
焦りから汗が出てくる。
緻密にウルフを探しながら、イーノック王国の僻地の地中に潜った奴も確認を行う。
地中に潜った奴は、地上に出てきている。
俺が検索魔法で追っていることも知らずに、奴は街へ向かって歩き出している。
途中で魔物を討伐して食べている。
しかし、このままいけば人的被害も出てくる可能性もある。
そう思っていた時に、奴は、今までは毛むくじゃらの格好をしていたが、一瞬で冒険者が着ている洋服に変化させた。
なにをする気だ?
なにを狙っているのか、気になるが‥‥‥
いまだにウルフの奴は引っかかってこない。
どこにいるウルフ‥‥‥
俺は検索魔法を地上から離すことをしてみたら、いた。
ウルフの奴は空間の中にいる。
しかし、その空間が、どことも繋がっていない空間だ。
この世界とも繋がっていない。
その空間の中で、奴は、いつもの実験をして何かを作っている。
ウルフの奴が空間で作っているものは、大量の箱型のブラックボックス。
そのブラックボックスから湧き立つ妖気は尋常じゃない。
黒い箱から煙みたいなドス黒い魔力が出てきている。
その箱の数も尋常じゃないくらい多い。
しかし検索魔法で位置はわかるが、他人の魔法の領域に侵入するのは、簡単ではない。
俺だって空間を作る時、他人が侵入しないように作るから、安全だといえるわけだ。
ウルフも、そうしているみたいで、たぶん、空間には入ることができないだろう、このまま、みているしかないのか?
なにか手がないのか?
考えろ
お前ならできるだろう‥‥‥と考えて目を開けたら、ここにいるメンバー全員が集まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます