第12話 冒険者になる
夕食の話し合いで、冒険者になる事はあきらめた………
いや、あきらめきれない。
一番、心が動かされたのは、アリシアの言葉………
俺と一緒に村で暮らしたいって言う言葉が、俺の心を揺り動かす。
あれから数日がたっても、俺の心は変わらない。
俺のことを運命の子よって言う声に好奇心を持ちながら、俺の心は決まっているが、最後の問題はアリシアを残していくことだけ。
しかし、村を出ることで、俺は何かが変わるし、先に進めると思っている。
その時に、アリシアをどういう形でか、わからないが、迎えに来ればいいじゃないかと。
でも、その時には、アリシアには、もういい人がいるかも知れない。
だから、アリシアにだけは言う必要がある。
伝える言葉は………
もしかしたら俺が村を出て、魔物だったり、盗賊に殺されることもあるかも知れない。
そんな時は、もう、村に帰ってこれない………俺の実力は、まだ、自分でもわかっていない。
それでも、村からでていくことは正解なのか?
もっと、実力をつけてからの方が良くないか?
いくら前世のアルベルトの記憶と能力を受け継いだとしても、それで大丈夫なのか?
俺は生まれてから村から出たことがない。
世間の魔法師が、どれほどの使い手なのか?
どうする?
冒険者になるのか?
それとも村に留まるのか?
村に残っても、アリシアと結婚できるとは限らないけど、もしかして結婚できたら、良いなと思うけど、俺の心が納得しない。
冒険者になるのも、先のことがわからない。
ケイシーやケインに聞いた話じゃ、冒険者だって過酷だ。
そして冒険者だって戦争になれば駆り出されると………
でも、今は戦争は起きていないと思うけど、俺の知らない所で起きているかも知れない。
いや、まてよ、戦争になれば、俺たちは駆り出されることもあり得る。
父親と俺は戦争に駆り出されてしまう。
それならば生き残れる方法を選んだ方が良いだろう。
それが冒険者になることだと思う。
この世に平和なんて、どこにもない………
自分の国が戦争を仕掛けないでも、相手国が仕掛けてくることはある。
それを待っているだけと言うのは、嫌だ。
冒険者になっても、村にいても、どこに安息があるのか?
何が起きても、家族を守るために、アリシアを守るために………いま、するべきこと。
そのためには、村をでて、経験を積むこと。
アルベルトの苦い記憶を二度と踏まないようにすること。
俺が決意を決めた夜、村を出る用意をアリシアに見つからないようにした。
部屋の半分がアリシアの部屋だから、仕切るシーツをめくって覗いたが、布団の中に丸まって寝ているみたいで、頭も見えない。
俺の部屋の扉をゆっくり開けて、いつも食事する所を通っていく。
俺の荷物は、ほとんどないので、袋に入っている。
俺は剣を持っていないので、木の棒を腰に差して進んでいく。
内カギを開けて、外への扉を開ける。
できるだけ音がしないように、ゆっくりと、ゆっくりと………
下を見ながら扉を開けていくと、三人の足が………
ドキッ
「やっぱりか」
「やっぱり」
「………」
三人は、俺を待ち伏せしていた。
「クリス、こんな朝早くにどこに行くの?」と母親。
「………」なんて、答えたらいいんだろう
俺が返事に困っていると、アリシアが「やっぱり、行くんだね」と小さい声で。
「うん、ごめん」と言いはしたものの、アリシアの顔をみれない。
はぁ~とため息をつかれた。
「実はね、この間の火が燃え上がった件もあるけど、村の人やお父さんが狩りにいくとね、少しずつ地形が変わっていることや、あたり一面で木や草が無くなっていることがあったんだって」と母親
「えっ………そうなの?」
「村の人たちは、不思議がっていたけど、私たちは、以前のこともあって、わかっていたのよね」
「………」
「うん、私も話を聞いて、クリスだと思った」とアリシア
「そ、そうなんだ………」
気が付かれていたのか~
まぁ、それは、そうか、あれだけ魔法を放てば地形も変わるか。
それに気が付かない人はいない。
大丈夫だと思っていたのは、自分だけか。
魔法を実際に放つことをしないと、わからないものな。
頭の中で空想する魔法と、実際に練習したり、魔物と対峙することは違うから。
しかも、父親から魔法の練習をみられていたらしい。
「まさか、お前が、あんな強力な魔法を使えるなんて、思っていなかったよ」と父親。
たぶんだけど、夢中になって練習している時に、近づいてきたんだろう。
稽古する前は、索敵をして人がいないことを確認しているから。
つい、練習に夢中になると、もう索敵はしないから。
「いつ、クリスが私に話してくれるのかと思っていたのに、黙ってでていくなんて、酷いよ………クリス」と涙が頬を伝う。
「………ごめん」
「………クリス、私も連れて言ってくれない」とアリシア
「えっ? アリシアも?」
「うん、私もクリスと一緒に旅に出て冒険者になってみたい」
「うん、でも、それは待ってほしい、というのは、俺も冒険者になるのは初めてだし、どうなるか、わからないから‥‥‥
それに冒険者になることができても、できるのか、わからないし、お金の問題もあるからね。
そして冒険者って旅をするから寝るのも外だし、魔物が襲ってくるかもしれないし、盗賊もいるだろうし、トイレの問題もあるんだよ」
「あっ、そうだね。トイレがないのか」
「うん、そうだよ。でも1年後に、俺が冒険者になれたら迎えにくるから、その時は、アリシア、一緒に冒険者になろう」
「………うん、わかった、クリス、待っているから、私も稽古、頑張るから」
「じゃ、行ってくるよ」と家族の賛成してもらって村を出ることができた。
最後に振り替えると、アリシアが俯いて寂しそうな顔をしていた。
その寂しそうな顔を、最後にする訳にはいかない。
俺も冒険者になって、アリシアと一緒にパーティーを組むんだ。
うん、そうすれば、ずっと一緒にいられる。
最後に振り替えると、遠くで一人だけ立っているのがみえた。
俺は、もう、後ろを振り返らず歩く始める。
1年だ………何があっても1年後にアリシアを迎えいく。
待っててくれ、アリシア。
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