第7話 探し物

 いざっ、探し物開始! なんて思ったがそもそもここが何を探しているかを聞いていなかった。


「それで、ここは何を探してるの?」


 ここはぶにゃっと鳴くと、自分の首元を見せつけてきた。


「ここはここの首についてた鈴を探してるんですにゃ。ご主人からもらった大事なものなのですにゃ~」


 探し物の難易度的に、鈴というのは結構難しいのではないだろうか。だが、場所が絞り込めれば話は別である。私は一縷の望みをかけてここに質問した。


「ここはその鈴をどの辺で落としたのか、心当たりある?」


 ここは小首をかしげると、きょろきょろと辺りを見渡した。まずそうな雰囲気である。


「にゃ~、わかんないですにゃ~。気が付いたら無くなってたにゃ~」


 ――なるほどなぁ、これはなかなか……。


 私もここに倣い、辺り一面を見渡してみる。私たちの周りには畑とわずかに点在する家しかない。だが、反対車線は住宅街が広がっている。あの人通りが多い住宅街でここが鈴をなくしたのなら捜索は困難を極めるだろう。そもそも、『気が付いたら無くなって』いたのだ。いつ落としたのかもわからない鈴は果たして無事なのだろうか。……これでは考えても埒が明かない。


 ――行動あるのみってやつかぁ。


 私たちはここから鈴の特徴を教えてもらい、まずは周辺の通りから鈴の捜索を始めることにした。


 ――それに、いつまでも電柱の前で独り言してる変な奴でいるつもりもないし。




 しかし、捜索を始めたはいいもののそう簡単にここの鈴は見つからない。


「結構暗くなってきたね。あー、もう六時じゃん。そりゃ暗いわけだ……」


 もう六時ということはかれこれ1時間ほど私たちは捜索を続けていたようだ。ふと足元を見るとここが尻尾をだらりと下げ背を丸めていた。


「見つからないですにゃ……」


 探し物をし始めた時とは違う、悲しそうな声でここが呟いた。猫好きの私はここの姿に庇護欲をくすぐられまくった。


「まだ見つからないって決まったわけじゃないし! 大丈夫、きっと見つかるよ!」

「気休めだな」


 ボソッと呟いた月風を無視して、私はいそいそと鞄からスマホを取り出した。


「ここ、鈴のこと友達にも聞いてみるね。見かけたら連絡してもらえるようにしとくから。だからほら、元気出して?」


 ここが顔を上げ、私を見つめてきた。上目遣いをしているその瞳が私には潤んでいるように見える。こんな時に抱くべき感情ではないとわかっているが、今のここはものすごくかわいい。ここはうんうんと何度か頷くと背を伸ばした。


「ここ、諦めないですにゃ~。手伝ってくれてありがとうですにゃ~」


 ここはやる気を取り戻した。しかし、私と月風の方はそろそろ時間切れだ。太陽は沈み、月と街灯の光だけで視界を保たざるを得なくなっている。空気は学校を出たころよりも冷たくなり、そろそろ寒くて歯が鳴りそうだ。


「けど、そのごめんね、ここ。私たち、そろそろ帰らないと……」

「にゃ! いっぱい付き合わせてごめんだにゃ。今日はありがとうだにゃ~。また、時間があったら助けてほしいですにゃ」

「うん。また時間がある日は協力する。ここの鈴、見つかるといいね」


 私たちとここはそこで別れた。ここはまだしばらくこの辺りで鈴を探すらしい。


「月風、手伝ってくれてありがとう」


 私は去っていくここの後ろ姿を見送りながら月風に告げる。彼は何だかんだで文句も言わずに探し物に付き合ってくれた。


「はっ、ご主人サマの命令だから仕方なくだっての」


 月明かりが照らす中、私たちは再び帰路に就く。月風も私も家に帰るまでの間、それ以上のことは何も話さなかった。けど、私にはこの沈黙も少しだけ悪くないように思えた。

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