第88話 スーパー白衣

「部長これ着て行って下さい。」


間中に白衣を差し出された。


「いや、間中のを借りるわけには」


断ると、


「これは、化学班開発中のスーパー白衣です!いいですか、胸ポケットのこのペンはGPSが仕込まれてるボイスレコーダーです。右のポケットには護身用痴漢撃退スプレーが、左のポケットには防犯カラーボールが入ってます。あと、普通の白衣に見えますが、暗闇で光る素材ですから暗くなってもどこに部長がいるかよく見えます。防刃ベストを縫い付ける予定でしたが、まだ間に合わなくて、ちょっと心配です。」


「間中は何を目指しているのだ?というかそんなに危ないのか?」


思わず聴いてしまった。すると眉をしかめて、


「雛ちゃんが拉致されたんですよ!それで科学部が慌てると分かっている!坂本先生が出張だと知っていて、しかも科学部私設の防犯カメラの死角をついて連れ去るとか!しかも準備室の鍵を開け閉めしている。こんなに学校事情に長けたけているなんて恐ろしい犯人だとおもいませんか!」


と長いセリフを吐いて私と目が合うとハタと気がついたようだ。


「もしや、職員が犯人……」


うんうんと私も科学部に恨みをもつか、脅してでも要求を通したい職員の犯行ではないかと考えていたところだからうなづいた。


「まあ、有り難く白衣は借りていくよ。犯人に出くわしたなら、カラーボール当てたいのう。こんな事ならコントロール鍛えきたえておけばよかった。あ、コントロールといえば、間中、森田さんには内緒にしておけよ。」


コントロールといえば剣山投げが得意な元華道部部長にして科学部新入部員の森田さんが浮かんだ。


「はい。てかなんでですか?」


「事件なんてきいてPTSDを発症したら大変だなって。できるだけ平和にしてて欲しいのだ。」


彼女はいたって普通に生活しているとはいうが、ご両親に車で送迎されている様子を見かけるのでまだまだ心配なのだ。


「分かりました。今日はもう下校しているみたいですね。でも、生物班ですし、細田、おかしくなってますし。いつまで隠せるか。」


「奴は出来るだけバスケ部に放り込んでおこう。安積さんに頼んでおくよ。雛ちゃんは今日帰ってくるさ。」


発言はできるだけポジティブで。それに、あのうるさいインコを長く抱えているのは大変なはずだ。無事に返すつもりなら、だが。最悪の事態にならないようにそれだけがひたすら心配で慎重に。犯人の目がどこに光っているのかも分からない事だし。ひとまずは雛ちゃんを返してもらわないと。

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