第32話 後日談
数学班をノックする音がした。
「如月おります。」
と返事をすると、ドアがスルスルと開いて木原瑛里が段ボール箱を持って入ってきた。
「失礼します。これを。」
そう言って箱を渡してきた。
「何かの?」
「科学部に迷惑をかけたお詫びです。間中さんに聞いたら、これだと言われました。」
とりあえず空いてる椅子をすすめて箱の中を見ると、あのリードが頭に刺さった像が入っていた。
「これっ?が?お詫びって。間中が欲しがったのかの?」
私の脳内はいらないの大合唱だが。
「ああ、お詫びはその袋の方で、このリード頭は数学班で保管するって間中さんが言うので。」
言われてよく見ると箱の中に私の好物のキャラメルチョコと幸太朗の好物のクランキーチョコが入っていた。
「まあ、幸太朗には渡しておくよ。そう言えば、この頭を作ったのは木原さんあなただったな。」
こちらで預かるなら確認は必要だろう。ただうなづくだけで肯定した木原さんに更にたずねた。
「吹奏楽部はこれからどうするんだい?」
事件に関わった部員の停学処分は免れたが、1ヵ月の活動休止、もちろん来週の文化祭参加は無し、8月のコンクールの出場も辞退させられたと聞いている。吹奏楽部がどうしていくのか気になっていた。
「門田部長は結局、パワハラいじめ主導を認め無かったわ。あくまで指導ですって。ただ3年は全員退部したわ。コンクールに出れないから、大学推薦も無くなったって。これで私達がいじめに加担した事が許されるとは思ってない。けど、私は事件を起こした事は後悔してない。」
木原さんは強い目でこちらを見た。
「1年が、うちら2年は辞めるべきだとか部長を1年にするべきだとか。コンクールに1年だけで出してくれとか勝手に言い出したけど、門田先輩の2年いじめを見て見ぬふりしていたから同罪だって校長が言ってくれたらしいわ。入部したばかりで分かりませんでしたって言い返したら、入ったばかりだからこそ気付けたでしょうとも。」
さすがだあの校長。ふんふんとうなづく。
「予定どおり、私が部長になって頑張る。なんとかする。それしかできないから。佐田くんには本当に悪かったって言っておいて。合わす顔が無いって言うか、怖くて会えないって言うか。でも、佐田くんのおかげで、このリード頭を作るって思いついたし、あなたが本気になってくれたし。良かったって思ってる。ありがとう。」
そういうと、医者に行く時間だからと木原さんは帰っていった。やはり木原さんも腱鞘炎を患い、歯医者に行くために部活を休むのも門田部長に怒られ、いろいろと溜まっていたらしい。ゆっくりと休部期間中に自分を治すと言っていた。
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