第35話:ゴキブリのように

「エドアルド様、フラヴィオ達が逃げ延びているようでございます」


 糞王太子の生死を確認させていた偵察員が報告してくれた。

 ある程度予測していた事ではあるが、腹立たしい事である。

 時間がかかり過ぎていると叱責したいが、それはできない。

 糞王太子に逃げる余地を与えたのは俺自身だ。

 

「ルーカ王は手を貸していたのか」


「証拠はなく、証人もおりませんが、手助けはしていないと思われます。

 ルーカ王が以前と同じ能力を保っておられるのでしたら、わざと見逃したと思われますが、色欲に溺れて劣化した可能性もございます」


「約束を破ってフラヴィオ達を逃がしたと断罪できる証拠は集めたか」


「はい、証拠と証人は集めました。

 王国時代からの侍女や愛妾は口封じに殺されてしまいましたが、王妃殿下と王太子殿下が逃げ込んだアヴァール可汗国の人間が証言してくれます」


「隠し通路と亡命の手配をしたのはレベッカ王妃で間違いないのだな」


「はい」


 元々ロマリオ王国はアヴァール可汗国と同盟する事で力を手に入れた国だ。

 いや、アヴァール可汗国の手先となって戦わなければ滅んでいた。

 結局はアヴァール可汗国にいいように使われていた。

 しかしルーカ王と先代王の武勇のお陰で、この国を切り取ることができた。

 ルーカ王が堕落しなければ、アヴァール可汗国、西突厥可汗国、スラヴ族連合と手を組んで、ローマ帝国を侵食していただろう。


 アヴァール可汗国は俺の誘いに乗って公国に攻め込むだろうか。

 それとも、これまで通り西突厥可汗国やスラヴ族連合と歩調を合わせて、クリミア半島やバルカン半島に攻め込むだろうか。

 アヴァール可汗国がどのような決断をしてもいいように準備はしてある。

 少し気になる事があるとすれば、マリアお嬢様に僅かでも危険が及ばないかだ。


「今はまだルーカ王に宣戦布告はしない。

 まずシチリア島を落とし、次にサルディーニャ島とコルス島を落とす。

 ジェノバに戻ってからルーカ王に宣戦布告をして、パピアを攻め滅ぼす。

 その間に、ローマ帝国、アヴァール可汗国、フランク王国、スラヴ族連合の動きを見極め次に攻め込む相手を決める」


「承りました。

 だた、最優先で見張る相手をお教えください。

 偵察員の多くと予算をローマ帝国に送っております。

 優先順位を決めてくださらないと、どの国に対しても表面上の情報しか集められなくなってしまいます」


 マリアお嬢様にだけ目を向けず、もっと広く見てくれという諫言だな。

 死にかけていた孤児が、よく成長してくれたものだ。

 だが、マリアお嬢様を最優先にする事だけは譲れない。

 こういう時の為の準備はちゃんとしてある。


「近衛隊から偵察もできる人間を移動させるから、そいつらを各国に派遣しろ」

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