第30話:晩餐会・マリア視点

「ねぇ、教団の事、御聞きになられました」

「わたくし、噂でしか知りませんの」

「わたくしも噂でしか聞いていないのですが、怖い事ですね」

「はい、あのカルロ殿が、大神殿ごと教皇様を焼き殺したそうですわ」

「でも、命じられたのはエドアルド殿下だというお話ですわ」

「恐ろしい事をなされますのね。

 やっぱりお生まれが卑しいからなのでしょうか」

「しぃいいい、そのような事をここで口になされたら、命がいくらあっても足りませんわよ」


 公王家に仕える貴族士族と、わたくしとお義兄様と婚約したい者しかいない、公王家主催の晩餐会なのに、あちらこちらでお義兄様の悪口がささやかれています。

 貴婦人であろうと令嬢であろうと、この場で決闘を申し込みたい気分です。

 ですが、お義兄様がわたくしにつけてくださった侍女達が事情を話してくれましたから、義妹としても将来の妻として我慢するしかありません。

 わたくしが女王となってこの国を率いる事になるのですから、王配となるお義兄様の情報収集を邪魔するわけにはいきません。


 今宵の晩餐会を支えている侍女や侍従だけでなく、お義兄様が信頼する貴族や士族が、まだ信用できない貴族や士族の言動を監視しています。

 時にこちらからお義兄様の悪口を言って、本心を引き出しているようです。

 今までの言動から、公王陛下やお義兄様に許されないと思った貴族士族は王家に残っていますが、お義兄様の諜報能力を甘く見ている者もいるのです。

 悪辣非道な行いで民を苦しめてきたにもかかわらず、厚顔無恥にも公王家に仕えたいと言ってきた者がいるのです。


 そんな公王家の名誉を傷つけかねない貴族士族を炙り出して処罰する。

 処罰した貴族士族の領地を召し上げて公王家の直轄領にする。

 没収した財産は公国の運営費に使う。

 今回のギリス教団殲滅には、そういう役割もあったのだそうです。

 父上の申された通り、お義兄様は一つの策に多くの役割を意味を持たせ、今その一つを回収しようとされています。


 ですが今直ぐ公王家やお義兄様の悪口を言った者を処罰するわけではありません。

 その程度の事では、貴族士族を処刑にすることも、領地や財産を没収する事もできないのです。

 だから、今回も罠を仕掛けているそうです。

 お義兄様の密偵達が、この場で悪口を言っていた貴族士族の領地に入り込み、決定的な証拠を探し出すそうです。


「マリア公太女殿下、新たに領内にやってこられた、ローマ貴族の公子殿が御挨拶をしたいと申されておられますが、いかがいたしましょうか」


「公王陛下には挨拶されたのですか」


「はい、既にご挨拶を済まされて、晩餐会の参加許可を得られておいでです」


「分かりました、だったらお会いするしかありませんね」


「どの殿方とも話をしたくないと思われておられる、公太女殿下のお気持ちは分かっているのですが、一度くらいは挨拶を許さない訳にはいきません。

 僅かでも無礼を働きましたら、お目汚しになってしまいますが、その場で取り押さえさせていただきますので、お願いしたします」


「分かっています、ソフィア。

 直接会って言動を確かめなければ、本質を見極められないとお義兄様も言っておられましたから、わたくしのこの目で確かめるようにいたします」


「お願いしたします、公太女殿下」

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