第62話 方便

「なにか情報は引き出せた?」


「いや。連日厳しい尋問を行なってはいるが、全員黙秘を貫いている」


アッシュは此方の様子を伺う様に、俺の目を覗き込む。

まるでそっちはどうだと言わんばかりだ。


捕らえた襲撃者は4人という体で国には引き渡してある。

だが実際は5人おり、その内の1人は俺がちょろまかしていた。

当然その事はアッシュ達も気づいている。


黙認という奴だ。


国の機関である以上、拷問などの激しい尋問は行えない。

裏でやろうと思えばできるかもしれないが、聖王女は正義感が強そうだったのでやりはしないだろう。

だからこそ彼らは期待しているのだ。


俺の非合法な情報収集ごうもんの結果に。


「アジトの位置は何か所か特定できたぜ。情報源は明かせないけどな」


バレバレであっても、建前は必要だ。

拷問しましたと馬鹿正直に公言する程、俺も愚かではない。

何よりこの場にはポーチも居る。


彼女には残酷な拷問の様子は基本見せない様にしているので、軽々しく口にする事は出来ない。


「教えてくれ、こちらで探りを入れて見る」


「ああ――」


彼らに情報を渡し、俺はファンシーショップを後にする。

裏が取れて押さえる事になったら、同行する予定だ。

別にアッシュ達を無視して襲ってやっても良かったのだが、今回は彼らと歩調を合わせる事にする。


上手く行けば、褒美に聖王女のおっぱいを少しぐらい揉ましてくれるかもしれないからな。

その為にも精々恩を売るとしよう。


翌日。

早速アッシュから連絡が入り、俺達は街合わせのファンシーショップへと向かう。


「裏がとれたぜ」


昨日の今日だ。

随分早いなと思い尋ねると「仲間は喋ったぞ。素直に喋るなら極刑だけは勘弁してやる」と脅し、俺の渡した情報を提示して捕らえた奴らの口を割ったらしい。


何せ本物の情報だ。

他の奴が喋ったと信じてもおかしくはない。

そうなると、当然自分だけ隠している意味はなくなるからな。

我が身可愛さに全員綺麗に口を割った訳だ。


人の命を奪う事を生業にしているくせに、いざ自分の身が危なくなったら保身で口を割る。

暗殺者ってのは本当にどうしようもない生き物だな。


「で、だ。6か所全部一気に押さえる訳だが、人手が足りない。悪いが手伝って貰えるか?」


「ああ良いぜ」


勿論同行する。

そして今度も、一人二人ちょろまかす予定だ。


「助かる。それと今度の一斉検挙が終わったら、聖王女様からお前達に褒賞がたまわれる事になっている。期待していいぞ」


「それはあのでかいオッパイを揉ませてくれると考えていいのか?」


「……決行は明日の正午だ。午前10時までにここに来ておいてくれ」


褒賞の内容が気になるので尋ねて見たが、見事にスルーされてしまった。

アッシュは予定だけを告げ、さっさと店から去って行ってしまう。


あいつら本当に感謝しているのだろうか?


「父上、聖王女の胸を揉む事が何故褒賞になるのです?」


それまでフォークでケーキを突ついていたポーチが、不思議そうに聞いて来た。


「政治的高度な話だから、気にしなくていいよ」


俺は笑顔で嘘を吐く。

世の中、何でもかんでも本音を伝えればいいと言う物ではない。

嘘も方便とは良くいった物だ。


この言葉を考えた奴は天才だな。

そう思う今日この頃であった。

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