第14話 無念

「よし!」


俺は覚悟を決めてリポップした。

そして次の瞬間即死する。


女神様に授けて貰った作戦。

それは、兎に角1センチでもいいから動くという物だった。

動いて動いて、別のモンスターを見つけるのだ。

そして見つけたモンスターにワイルドベアを擦り付ける。


――というものではない。


ワイルドベアーの気配が近づいてきたら、他の魔物は間違いなく逃げ出すに決まっている。

普段の状態ならともかく、俺の相手をしているワイルドベアーに気づかない間抜けなモンスターはこの辺りにはいないだろう。


じゃあどういう作戦かと言うと。

じりじりとワイルドベアーを動かしていき、ある程度離れた遠くまで進んだ所でセーブしておいた最初のリポップポイントで復活するというものだ。


例えワイルドベアが俺を追って戻ってきても、今度は一個前にセーブしたポイントに飛べばいい。

そうすれば距離をどんどん稼げていく筈。

そしてこれを繰り返し逃げ続けていけば、いつかは必ず逃げ切れる。


筈なんだが――一歩も動けねぇ。


リポップした瞬間、俺は粉砕される。

体――というか肉片や骨は遠くへとすっ飛んで行くが、残念ながら俺の魂はその場から1ミリも動けていない。

何故なら、どれだけ体が吹っ飛ぼうと死んだ場所が俺のリポップポイントになってしまうからだ。


リポップ後の即死を何とかしない事には、俺は一歩たりともここから動けない。

だから何とかしなければならないのだが、この糞熊、昼寝の一つもしやがらねぇ。


どないせーっちゅーんじゃ!


兎に角、駄目元で動いてみる。

連続でリポップし続ければワイルドベアーもその内疲れて隙が出来るかも知れないしな。

千里の道も一歩からだ。


「ほげぇぇぇぇ」


「ふげぇぇぇぇ」


「はぎゃあぁぁ」


「ぶべらっぷぅ」


延々リポップを続ける。

そしてその度に瞬殺された。

特に痛みは無いのだが、攻撃されたショックで変な声が漏れ出てしまう。

その為、森の中に延々と俺の断末魔の声が響き渡っていた。


これ、知らない人が聞いたらびっくりするだろうな。

迷い込んだ森で延々こんな物聞かされたら、生前の俺なら間違いなくびびって漏らしている自信がある。


あー、死んでてよかった。

いやまあ良くないけど……


こうしてこの後、俺の断末魔は3日3晩続くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る