新狩場へ
第6話 レベリング道場再び
ずりずり……ずりずり……
ずりずりずりずり……ずりずずず……
ずりずりずりずりずりずりずりずりずり……
腹を地に着け。
両手足と体の動きだけで進む。
ずりずりずり……
あ、言っとくけど股間を地面に擦り付けて楽しむ特殊プレイじゃないから悪しからず。
この行動は特殊性癖を満足させるためではなく、安全に移動する為だ。
湿地を抜け既に二日。
辺り一面、背丈の低い植物に覆われた草原が広がっていた。
そんな場所を、ゾンビが昼間立って移動するのは余りにも目立ち過ぎてしまう。
見つけた冒険者に退治してくれと言っているようなものだ。
だから日の出ている内は、こうして周りから見えない様に身を屈めて前進しているという訳である。
ずりずりずり……
ん?
何か落ちてるぞ?
こんな場所に何だ?
草をかき分けていた指先に何かが当たり、俺はそれをペタペタと触って確認する。
ザラザラとした毛の感触。
大きさは子犬サイズ。
というか子犬っぽい。
恐らく
「くぅ~ん」
死体かと思い、邪魔なのでどけようとしたその時、か細い鳴き声が俺の耳に届いた。
どうやらまだ死んではいない様だ。
だが
死にかけなのにあっち行けされるのは流石に可愛そうだと思い、俺はそいつを避ける様に迂回する。
ずりずりずり……
「くぅ~ん」
ずりずり……
「きゅー」
ずり……
「うぁあ……」
俺は汚いため息を吐いてから軽く四つ這いになり、辺りを見回し確認する。
よし、人影は見当たらない。
気づけば日も大分傾いてきている。
これなら余程目の良い奴以外には見つからないだろう。
俺はおもむろに立ち上がり、先程の
ぱっと見、特に外傷は見当たらない。
恐らく空腹による餓死寸前なのだろうと思われる。
俺がそっと頭を撫でると、そいつは俺の手をぺろりと舐めた。
「うーあー(腐ってるから舐めたりしたら腹壊すぞ)」
まあもう死にかけているのだ。
今更腹の一つや二つ、壊れた所でどうって事は無いだろう。
昔、餓死はとても苦しい死に方だと聞いた事を思い出す。
俺はおもむろに自分の腕の肉を食い千切り、それを手に取って犬の口元へと近づける。
すると子犬は俺の腐肉を一舐めしてから、堰を切った様に肉に貪りついた。
よほど腹が減っていたのだろう。
腐った肉でも構わないと思える程に。
見る間に食い終えたので、再び肉を食い千切り与える。
必死に生きようと肉に食らいつくウルフを見ていると、涙が出て来た。
こいつはもう助からないだろう。
所詮は腐肉、半分毒の様な物だ。
餓死寸前の弱った体でそんな物を口にすれば、どうなるかなど考えるまでも無い。
だがそれでも飢えて死ぬよりは幾分かましかと思い、俺は足をウルフに差し出してやる。
「うぁうー(最後の晩餐がゾンビの肉で悪いが、せめて腹いっぱいくえ)」
本当は止めを刺してやるのがこいつにとって、一番楽な死に方なのだろうと思う。
だが昔犬を飼っていた思い出があるせいで、とてもではないが俺には出来そうもない。
許せ……
そんな風に
いや、最初っから死んではいるんだが、どうやら食われ過ぎてLCが0になってしまった様だ。
子犬恐るべし。
「キャンキャン!」
ウルフは腹いっぱい食って元気になったのか、俺の体が消えた辺りを尻尾を振りながらくるくると回っている。
どうやら腐っている肉でも問題無かった様だ。
流石魔物、強靭な胃袋をしてやがる。
まあでも良かった。
折角生き延びたんだ、強く生きろよ。
因みに俺の体は、LCが無くなって少しすると消滅する。
つまり今は霊魂の状態って奴だ。
「キャンキャン!」
しかしいつまで回ってんだ?
ひょっとしてこいつ、俺の魂が見えてんのか?
試しに手を振ってみる。
「きゃうん!」
あ、返事した。
まじか。
俺の魂が見えるって事は、こいつその手のユニークスキル持ちって事か?
ウルフはいつまでも纏わりついて離れようとせず、ごろんと寝転がり俺に腹を見せた。
どうやらお代わりを求めている様だ。
この先、こいつ一人で生きていくのは大変だろう。
俺を食い殺せば、食事のついでにレベルも上がるし一石二鳥だ。
そう思い、俺はリポップする。
「うぁうあうー(レベルリング道場再び!とくと味わうが良いわ!)」
こうして俺のレベリング道場第二部が始まった。
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