第134話 果てぬ乱打戦③
1944年6月6日
「敵巡洋艦2隻、駆逐艦3隻に水柱確認! 大火災!」
「第2水雷戦隊か? 流石だな」
第5戦隊旗艦「鳥海」に将旗を掲げている町村金太少将は、友軍が挙げた望外の戦果に対して純粋に喜んでいた。
「司令官、好機です!」
「本艦と『摩耶』目標敵1番艦。『那智』『愛宕』目標敵2番艦。『足柄』『羽黒』目標敵3番艦。射撃開始!」
参謀長三谷門前大佐が町村に呼びかけ、町村は即座に射撃開始を命じた。
「観測機、吊光弾投下!」
「奥にも巡洋艦がいるな。クリーブランド級か?」
吊光弾から発せられた光によって手前の巡洋艦3隻の他にもクリーブランド級軽巡で構成されている部隊がいることに明らかになった。
(まずは2対1という数の優位を生かして手前の敵巡洋艦3隻を葬る。クリーブランド級はそれからだ)
手前の敵に砲火を集中させると奥の敵に一方的に撃たれる危険性があったが、こっちの数が米軍に比べて圧倒的に少ない以上、致し方なかった。
「目標敵1番艦砲撃開始!」
「鳥海」艦長長野道広大佐が、艦橋トップの射撃指揮所に下令し、5基の20センチ主砲がまだ混乱から立ち直っていない敵1番艦の動きに合わせて旋回を開始した。
そして、前甲板に閃光が走り、5発の20センチ砲弾が発射された。
「第5戦隊全艦射撃開始しました!」
見張り員によって両艦の動きが報告され、敵1、2、3番艦の周囲の海面に水柱が奔騰し始めた。
「敵2番艦砲撃開始しました! 敵3番艦砲撃開始しました!」
いち早く体勢を立て直した敵2番艦が反撃の砲門を開き、敵3番艦も砲門を開く。
敵弾の飛翔音が聞こえてくる中、「鳥海」以下の5隻は第2射を放つ。
「・・・遠いな」
第2射の弾着位置を見た町村は誰にも聞こえないように静かに呟いた。日本軍は米軍と違いレーダー照準射撃をまだ実用化していないため、観測機がいるとは言え、第1射、第2射当たりの弾着の精度は余り良くないのが現実であった。
「『那智』被弾! 主砲1基破壊された模様!」
先手を取ったのにも関わらず、先に被弾したのは日本側だった。
3番艦の「那智」の第4主砲に8インチ砲弾が命中し、主砲塔1基を木っ端微塵に撃ち砕いたのである。
「鳥海」は第7射まで空振りを繰り返し、目標の敵1番艦に直撃弾炸裂の閃光が走る事はなかったが、第8射で挟叉弾を得ることに成功した。
「次より斉射!」
砲術長が斉射への移行を命じ、20秒後、この日初めてとなる斉射が「鳥海」より放たれた。
交互撃ち方時のそれに倍する衝撃が「鳥海」の艦上を走り抜け、基準排水量12000トンの艦体が僅かに右舷に傾いた。
そして、敵1番艦が砲撃をやっと再開し、第1射を放った直後、「鳥海」の第1斉射弾が落下した。
8本の水柱が敵1番艦の姿を包み込み、それが崩れた時、2カ所から黒煙を噴き上げる敵1番艦の姿が現れた。
「2発命中!」
「よし!」
町村は手を叩いて「鳥海」の戦果を喜び、それに答えるかのように「鳥海」は第2射を放つ。
敵1番艦の第1射が着弾した直後、10発の20センチ砲弾が発射される。
直撃弾2発を喰らいながらも、敵1番艦は第2、3、4、5射と矢継ぎ早に砲弾を放つ。発射間隔は敵1番艦の方が短いようである。
「鳥海」が第3斉射を放ち、次いで敵弾の飛翔音が急速に拡大してゆき、それが耐えきれない程になった時、1発目の直撃弾が「鳥海」を襲った。
艦橋直下から突き上げるような衝撃が届き、艦橋にいた人員の約半数が一時に転倒した。
恐らく、敵弾は艦橋直下の第4、5高角砲付近に命中したのだろう。
案の定、「第4、5高角砲損傷、火災発生!」との報告が見張り員よりもたらされた。
この時には、「鳥海」の第2斉射弾が敵1番艦を捉えていた。
夜間のため、詳しい状況は不明であったが、10発の内、1、2発は命中していると考えていいはずである。
第3斉射の着弾を待つまでに「鳥海」は2度、直撃弾炸裂の衝撃によって揺さぶられた。この衝撃はさっきのよりも強く、艦の重要な場所が破壊された事を覚悟するには十分過ぎる程であった。
「第1主砲損傷! 根元から持って行かれました!」
(溶接部をやられたな)
町村は心の中でまたも呟いた。命中した敵弾は第1主砲塔と艦体の接合部に命中し、第1主砲塔ごと「鳥海」から引き剥がしたのであろう。重巡の各主砲塔には優秀な砲術科員が配置されていただけに、彼らの戦死は「鳥海」にとって、いや、帝国海軍全体にとって極めて痛手であった。
しかし、敵1番艦も手痛い反撃を喰らった。
「敵1番艦の主砲塔1基の破壊を確認。『摩耶』の戦果です!」
先手を取ったのにも関わらず押され気味だった「鳥海」であったが、ここに来て2対1という数の力が流れを日本側に引き寄せてきたのだ。
「摩耶」には負けぬとは言わんばかりに「鳥海」も第4斉射を放ち、敵1番艦の艦上に直撃弾炸裂の閃光が走り、更に主砲塔1基の破壊に成功する。
「鳥海」「摩耶」が敵1番艦を徐々に押し込みつつあったのだった・・・
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