第133話 果てぬ乱打戦②

1944年6月6日


 42駆の「満月」が轟沈、「霜月」が大破した頃、米海軍の重巡「ボルチモア」「ボストン」「キャンベラ」「クインシー」「ピッツバーグ」はそれぞれ、砲撃目標を設定して砲撃を開始していた。


 狙いは日本海軍のミョウコウ・タイプ及びタカオ・タイプの重巡5隻であり、友軍のクリーブランド級軽巡と共同で砲火を集中させれば、圧倒的に優位に戦いを進める事ができると考えていた。


 ボルチモア級はウィチタ級の設計思想を引き継いだ設計となっており、55口径8インチ連装砲3基を備え、全長205.25メートル、全幅21.59メートル、基準排水量14704メートル。


 期待の新鋭艦であり、これからの活躍が期待されていた。


 「ボルチモア」の各砲塔の1番砲が咆哮し、ボルチモア級のがっしりとした艦影が夜闇に浮かびあがる。


 他の4隻も砲撃を開始しており、1艦当たり3発の8インチ砲弾が宙を飛び、目標の周囲に落下し、海面に水柱を奔騰させる。


 「ボルチモア」艦長A・G・カイゼル大佐は砲戦の様子を見つめながら、一刻も早く「ボルチモア」が命中弾を得る事を願っていた。


「ミョウコウ・タイプ、タカオ・タイプの様子はどうだ?」


「日本海軍の重巡部隊は本隊と距離を縮めつつあるものの、射撃は開始されておりません!」


「よし!」


 見張り員からこちら側が一方的に砲撃を浴びせている旨の報告が届いた。彼我の距離は12000メートルといった所であり、レーダー連動射撃技術がまだ十分に発達していない日本軍では射撃精度が確保できていないのかもしれなかった。


 いずれにしても、5隻の敵重巡を一掃できるチャンスであった。


「味方駆逐艦6隻砲撃開始!」


「本艦の第4射、目標を挟叉しました!」


 新たな報告が矢継ぎ早に届けられ、カイゼルは斉射への移行を命じた。


「次より斉射!」


「アイアイサー!」


 砲術長がそれに答え、「ボルチモア」の主砲が暫し沈黙した。


 この勢いのまま、「ボルチモア」が敵1番艦を叩きのめす事をカイゼルは1ミリも疑っていなかったが、味方艦艇に異変が起こったのはその時であった。


「『トラセン』轟沈! 『ヒーアマン』速力低下・・・急減!」


「何っ!? どういうことだ?」


「『トラセン』『ヒーアマン』の両艦には魚雷が命中した模様! 『ヒーアマン』艦上に大火災発生!」


 爆発音が「ボルチモア」の艦橋にも聞こえてきた。


「転舵! 転舵だ、航海長!」


 先ほどまでとは打って変わって、カイゼルは狼狽した様子で命じた。


 日本軍のいずれかの部隊が放った魚雷が海面下を速力45ノット以上で疾駆しているのだ。一刻も早く転舵によって対向面積を最小にしなければならなかった。


「まだか・・・、まだか・・・、まだか・・・」


 「ボルチモア」の転舵が始まるまでの間にも両艦の被雷は続く。


 轟沈した「トラセン」の右舷側を航行していたフレッチャー駆逐艦「ヘイゼルウッド」が艦首に被雷し、艦首を食い千切られる。


 艦内の大量の物資が、種類かまわず海面に放り投げられ、それと入れ違いに浸水が始まる。


 魚雷命中は駆逐艦だけに止まらない。殿艦の「ピッツバーグ」の左舷中央部に1本、第1砲塔付近に1本の水柱が連続して奔騰した。


 「ピッツバーグ」では艦長が即座に「両舷停止!」を命じたものの、直前まで速力30ノット以上で進撃していた艦体が急に停止するはずがなく、艦は大きく左舷に傾きつつあった。


「『キャンベラ』被雷! 舵故障の模様!」


 「ピッツバーグ」に続いて、「キャンベラ」も被雷する。


 日本軍の魚雷が転舵を開始し始めた「キャンベラ」の右舷艦尾部に猛速で突っ込み、舵を完全に吹き飛ばしたのだ。


 一瞬にして行動の自由を失った「キャンベラ」は明後日の方向に艦首を向け始め、そこに更に1本の魚雷が突っ込んできた。


 残りの巡洋艦3隻は恐慌状態に陥っていた。


 そして、やっと「ボルチモア」が転舵を開始し、その右舷側を2本の雷跡が通過していった。


「まだです! 艦長!」


 呆然としつつあったカイゼルと対称的に副長ハンター・ウッド・ジュニア中佐が声を励ました。


 重巡2隻、駆逐艦3隻が被雷したものの、全体の数はまだまだ味方の方が圧倒的に優勢である。


「よし! 射撃再開!」


 カイゼルは命じ、「ボルチモア」の主砲が旋回し、交互撃ち方を再開する。


「敵1番艦砲撃開始! 敵2番艦砲撃開始!」


 見張り員からの報告が届き、それに敵弾の飛翔音が重なった。


 「ボルチモア」の右舷側に水柱が突き上がり、それが崩れた時に「ボルチモア」が第2射を放った。


「『ボストン』『クインシー』射撃再開しました!」


 生き残った「ボストン」「クインシー」も「ボルチモア」に続けと言わんばかりに砲撃を再開した。


 まだまだ勝負はこれからであった・・・


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2022年3月28日 霊凰より







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