第116話 戦局流動

1944年6月4日


 「蒼龍」大破航行不能、「瑞鳳」中破の損害を受けた第2艦隊、第3艦隊は第3次攻撃隊の収容後、即座に第4次攻撃隊の発進準備を始めていた。


「現在の保有機数は何機だ?」


「出撃72機中50機が帰還しましたが、損傷の酷い機体は再出撃させることができないので、実質40機前後といった所ですね」


「約4割くらい失われた計算か? あと1、2回出撃させたら、艦載機がとんでもない事になるぞ」


 高次貫一「鳳龍」艦長は副長の岸田中佐からの報告に対して思わず艦橋の天井を仰ぎ見た。艦載機隊のとんでもない損耗は既に1年前のラバウル沖海戦で経験済みではあったが、今回は明らかにそれ以上である。


「確かに艦載機の損耗は激しいものがありますが、着実に戦果も挙がっていますよ」


「集計が終わったのか。教えてくれ」


「3波に渡る攻撃隊を敵『甲』部隊に集中させ、正規空母1隻撃沈確実、同1隻中破、小型空母2隻撃破との事です」


「エセックス級の正規空母を1隻撃沈できたのは喜ばしい事ではあるが、他の3隻もこの際確実に片付けておきたいな」


「ですが、敵機動部隊は『甲』部隊の他にもあと2部隊存在していることが判明しています。司令部は無傷の機動部隊を叩くことを優先するのではないでしょうか?」


「無傷の機動部隊に激減した航空戦力をぶつけたところで戦果は挙がらんよ。叩くなら手傷を負った空母だ。そこら辺は小沢長官も十分に分かっていらっしゃるだろう」


(それにしても米軍の戦力といったらありゃしないな)


 岸田と話しながら高次は腹の底で呟いた。このことは前任の「大鷹」艦長時代から感じていたことではあったが、機動部隊所属空母の艦長として米機動部隊と実際に対峙すると更に高次はその思いを強くした。


 ラバウル沖で4隻撃沈したのにも関わらず、米機動部隊の総数はエセックス級正規空母6隻、インデペンデンス級軽空母6隻と日本側の11隻を凌駕しているのだ。12隻中4隻は戦列から消えたが、まだ相手は8隻が健在である。


 それに対してこっちは・・・


「今の時点で沈没確実なのは2航戦の『蒼龍』だけだな?」


「はい。『蒼龍』だけです」


 高次は艦橋の窓から、沈みつつある「蒼龍」を見つめながら呟いた。


 1時間前の空襲で飛行甲板に爆弾2発命中、水面下に魚雷2本の命中を受けた「蒼龍」は航行不能となり、その後、艦長の大川大佐以下の全乗員が決死の復旧作業を行ったものの、火災の拡大、浸水が収まることはなく、30分前総員退艦が下令されたのである。


 他にも小型空母「瑞鳳」が爆弾2発を喰らって中破しており、「大鳳」も至近弾炸裂によって艦底部に浸水が生じていた。


「・・・いや、4波に渡る米攻撃隊に対して空母1隻喪失の損害で済んだというべきなのかもな。硫黄島から来てくれた援軍のおかげだ」


 硫黄島から発進した陸海軍機構成戦闘機隊が第3艦隊の上空援護に現れたのは米軍の第4次攻撃隊が来襲する直前であった。


 機数は80機であり、未だに頑張っていた第3艦隊の零戦隊と共同で160機の敵機を果敢に迎え撃ったのだ。


 結果的に、この空襲での被害は僅かに空母「翔鶴」に至近弾1発が出たのみであった。


 これらの機体は1航戦「加賀」「翔鶴」、2航戦「飛龍」、4航戦「隼鷹」などに分散して収容されており、燃料・弾薬の補給を行い、再出撃の機会を待っていた。


 1時間後・・・


 飛行甲板上に零戦・彗星・天山が敷き並べられてゆき、暖気運転が開始された。


 「鳳龍」からの出撃機数は零戦15機、彗星11機、天山9機。


 迎撃用の零戦を除くと「鳳龍」が出せる全戦力である。


 飛行隊長の訓示が終わり、搭乗員が各々の機体に向かって散ってゆく。


 「鳳龍」が風上へと突進してゆき、零戦1番機の輪止めが外され、後続機も続く。


 第4次攻撃隊が発進していったのだった。



 日米機動部隊が硫黄島近海で死闘を演じていた頃、トラック環礁の戦いも始まろうとしていた。


 午前9次頃に春島の海軍飛行場から発進した偵察機「彩雲」が大型空母2隻を伴う有力な米艦隊を発見したのだ。


 発見された空母は開戦以来の生き残りである「サラトガ」と「ヨークタウン」の2隻であり、まだ日本側は未発見ではあったものの、10隻の護衛空母も随伴していた。


 全12隻の空母の飛行甲板上ではF6F(護衛空母はF4F)、ヘルダイバー、アベンジャーの発進準備が進められており、周囲を固める護衛艦艇は敵潜水艦の出現に目を光らせていた。


 一方のトラックの第11航空艦隊司令部も膝下5個航空戦隊に戦闘準備を既に下令しており、滑走路からは次々に零戦、陣風が発進し始めていた。


 ここに、硫黄島近海に続いて、トラック環礁付近でも熾烈な航空戦が開幕しようとしていたのだった・・・


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2022年3月11日 霊凰より








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