第114話 「蒼龍」大破

1944年6月4日


 空母「蒼龍」は対空砲火を激しく撃ち上げながら、右へ右へと回頭していた。


「敵機10機以上本艦上空! 機種はヘルダイバーと認む!」


「了解!」


 艦橋見張り員が報告を挙げ、大川久「蒼龍」艦長が大音声でそれに答えた。


 今回の出撃に伴って「蒼龍」の対空砲火は大幅に強化されている。


 開戦時には40口径12.7センチ連装高角砲6基12門、25ミリ連装機銃14基28挺、11ミリ単装機銃6挺だったのが、40口径12.7センチ連装高角砲9基18門、25ミリ3連装機銃12基36挺、同単装機銃18挺となっている。


 これらの火器が、仰角を目一杯かかげて、上空から迫り来る脅威に対して射弾を放っているのだ。


「『阿賀野』本艦上空に射撃集中しています!」


「有り難い!」


 「蒼龍」の右舷側を航行している阿賀野型軽巡「阿賀野」が10センチ砲弾を撃ち込み、2機のヘルダイバーが投弾コースから離脱していく。


「敵機、急降下!」


 見張り員が報告を挙げ、「蒼龍」の対空砲火が一層激しさを増したように感じられた。敵機を射程距離に捉えた25ミリ機銃が射撃を開始したのだろう。


 「蒼龍」は転舵を続ける。


 その姿は艦名の由来となった「蒼い龍」を想起させるのには十分な姿であった。


「敵1機撃墜! 1機離脱!」


 見張り員が声をうわずらせながら報告を送る。


(全機の阻止は厳しいな)


 大川が上空から覆い被さるように接近してくるヘルダイバーの編隊を見つめながら呟いた。ヘルダイバーはまだ8~9機程度健在であり、投弾までの時間猶予はもうほぼなかった。


 ダイブ・ブレーキ音が更に拡大し、25ミリ機銃の火箭が1機のヘルダイバーに突き刺さる。


(・・・!!!)


 上空から爆弾の落下音が聞こえ始め、大川は脚に力をいれて身構えた。


「総員衝撃に備えよ!」


 ヘルダイバーが次々に「蒼龍」の頭上から離脱していき、4機目が離脱した直後、最初の弾着がきた。


 最初に水柱は右舷側に奔騰し、押し出される海水の圧力をもろに受けた「蒼龍」の艦体が大きく軋んだ音が聞こえた。


 2発目、3発目も外れる。


(全て躱しきれるか?)


 3発連続で爆弾が外れ、大川は全弾回避に希望を持ったが、5発目が着弾した直後、その希望は木っ端微塵に砕け散った。


 大川の目が黒い塊が「蒼龍」の飛行甲板に吸い込まれた事を確認した直後、飛行甲板が丘のように盛り上がり、パッと弾けた。


 巨大な火焔が湧き出し、引きちぎられた板材、鋼材が海中へと落下していった。


 大川自身も艦橋の壁に叩きつけられそうになったが、事前に体を踏ん張っていたということもあって辛うじて衝撃に耐えた。


 命中弾は1発に留まらない。


 6発目は至近弾となり、海水を噴き上げるだけに終わったが、最後の7発目が再び飛行甲板に吸い込まれたのだ。


 前部航空機用エレベーターが天に吹き飛ばされ、巨大な破孔から大量の火災煙が噴出し始めた。


 着弾はそれで最後だった。


 2発の直撃弾を受けた「蒼龍」の飛行甲板上は見るも無惨な状況となっており、黒煙によってその全貌の確認が困難な程であった。


 これまで戦闘力を失った空母が0隻であった第3艦隊であったが、ここにきて空母1隻が戦列から失われてしまったのだ。


 だが、気を抜いている暇は1秒たりとも存在しなかった。


 遡ること90秒前、雷撃機の接近が報告されているのである。


「敵艦攻10機! 本艦右舷より接近中!」


「舵、そのまま!」


 アベンジャーが海面付近より横一列となって「蒼龍」を肉迫にしてきていたが、大川は新たな転舵を命じなかった。


 彼我の相対距離から考えて、今から転舵しても間に合わないからである。


 ここは一か八か、舵をそのままにしておくのが得策であった。


 アベンジャーの周囲に高角砲弾が炸裂し始める。


 アベンジャー1機が真っ正面から12.7センチ砲弾のカウンターパンチを喰らいもんどりうって海面に叩きつけられ、高速で飛び散る弾片に発動機を傷つけられたアベンジャーもやはり海面に叩きつけられる。


 機銃群が射撃を開始し、中央を飛行しているアベンジャーに有らん限りの火箭が集中される。


 アベンジャーの機体がわまばゆい閃光が閃き、次の瞬間にはそのアベンジャーは木っ端微塵になって消失している。


 頑丈な造りの米軍機にしては珍しい光景であった。


 投雷前に阻止できたのは3機だけであった。


「アベンジャー投雷!」


「右舷より雷跡多数!」


 離脱を図るアベンジャーに火箭が叩き込まれ、1機が火を噴く。


 やれることは全てやった。後は「蒼龍」が全ての雷撃を回避するか、「蒼龍」の下腹を魚雷が抉るかのどちらか一択である。


 だが、答えは無情にも後者であった。


 「蒼龍」の舷側に1本の水柱が奔騰し、それが火柱に変わったのだ。同時にけたたましい破壊音が艦底部から聞こえ、大量の水蒸気が艦外へと放出された。


 2秒後、更なる衝撃が「蒼龍」の艦体を襲った。


 全力航行を続けていた「蒼龍」の艦体が巨大な力に押し戻されるように減速していき、艦首が大きく沈み込みつつあるのが確認された。


「・・・第3艦隊司令部宛に打電せよ。『我航行不能』とな」


 程なくして、「蒼龍」の状態を確認した大川は、電信長に打電を命じたのだった・・・


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2022年3月9日 霊凰より




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